※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
第2波の襲来が懸念されつつも、徐々に以前の生活に戻りつつある日本社会。学校閉鎖もあって活動できなかった各大学のレスリング部も、復活の道を歩み始めた。
東京都の感染者は“高値安定”している状況だが、接待を伴う飲食店が中心とされ、市中はかなり落ち着いているもよう。副都心のひとつ、渋谷にある青山学院大は、今月17日より屋外スポーツ施設の使用再開が許可され、24日から記念館にあるにあるレスリング道場のマットで汗を流し始めた。全員参加しての練習とはいかず、日本協会の定めたガイドラインに従い、6人ずつの日替わり、あるいは時差練習だ。
練習場のドアと窓は開放され、マットサイドには大型の扇風機。清掃用のアルコールの大型詰め替えボトルも置かれ、衛生状態に細心の注意を払っての練習再開。
同大学は、3月初めに合宿や卒業生の送別会など集団での会食を禁止したあと、同下旬からクラブ活動の自粛要請。4月に入って大学への入構制限措置が取られた。したがって、少人数とはいえ、チームでの練習は約3ヶ月ぶりとなる。まだ組み合う練習はなく、体力を戻す段階という。
2012年ロンドン・オリンピック代表の長谷川恒平監督は「換気とマットの消毒には注意を払っています。必ず検温をし、体調が悪い場合は、回復後2週間の経過観察期間を設けます」と話す。各自でトレーニングしていたとはいえ、体力の維持には「個人差がある」というのが同監督の感想。自粛中の練習環境やコロナウィルスへの不安感について、選手によって差が出てしまうのは仕方あるまい。
スパーリングをやらせてほしいという雰囲気も感じられたようだが、チームミーティングを行い、「感染拡大を防止するという共通認識を持ち、ガイドラインに従って段階的に練習を再開すること」を徹底し、段階的な練習を推し進める。
同大学では、フィットネスセンターがアスリート向けのトレーニング・メニューを作ってくれ、動画で配布。各選手はスマホを見ながらトレーニングしてきた。現在も役立てており、専門家の“指導”のもと、徐々に体力を戻していく予定という。
全体練習ができなかったことで、長谷川監督は「どの選手も不安があると思う」と言う。8月に予定されていた全日本学生選手権も中止、または延期となり、モチベーションの維持は大変なことのひとつ。同部は単位の取得をおろそかにしない方針を掲げており、「オンライン授業ばかりで、その面でも不安があると思います」と言う。
「勉強とレスリングの双方での不安を取り除きながら、やっていきたい。全員が満足する正解はない。他大学や連盟と情報共有しながら進んでいきたい」と言う。
新入部員の一人、昨年の世界カデット選手権3位の菅沼碧久(東京・自由ヶ丘学園高卒)は、3月末に少しだけ練習に加わったあと、練習中止に見舞われた。本来ならJOCジュニアオリンピックで勝ち、明治杯全日本選抜選手権で力を試し、世界ジュニア選手権へと思いをはせていた時期だ。
「1ヶ月もしないうちに(練習に)戻れると思った。ここまで長くなり、不安はあります」と言う。自粛期間中は、人が少ない早朝に外を走り、家でチューブを使ったトレーニングなどをしてきた。
一方で、「(大会という)目標がない中、自分で目標を立て、しっかり取り組めるかを試すにはいい機会だと思います。自分で行動し、実践する機会と考えるようにしています」という前向きな考えも持っている。「練習環境があることや、練習相手がいることのありがたさを感じました」と話した。
今年3月に卒業し、この日は外部コーチとして参加した藤井達哉(後藤回漕店)は、昨年の全日本学生選手権で3連覇を達成し、2024年パリ・オリンピックを目指すことを決めている。主な練習拠点は日体大に移したが、同大学も閉鎖されたため、レスリングシューズを履くのは約2ヶ月半ぶり。
「まさかこの時期まで、レスリングができなくなるとは思っていなかった」と振り返る。しかし、採用してくれた会社のことを考えると、くじけるわけにはいかない。「会社の存在は大きかったですね」と言う。
大学スポーツ協会(UNIVAS)が制定する「パーソン・オブ・ザ・イヤー」(文武両道を実践し、他の模範となる運動部学生)の栄えある第1回最優秀賞に選ばれた。しかし、コロナウィルス拡大のため、3月末に東京プリンスホテルで行われる予定だった表彰式は中止。「受賞の実感はないです」と苦笑いするが、「自信にして頑張っていきたい」と言う。
10月の世界大学選手権(ロシア)は、まだ中止が伝えられていない。実施されれば、昨年の学生王者として選抜される可能性もあるわけで、「どん欲にやっていきたい。パリを目指すという気持ちは、この3ヶ月間、ぶれることはなかったです」と語気を強めた。