※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
【世界選手権取材チーム】Road to Tokyo──。もがきにもがいた末の銅メダル獲得だった。9月19日に行われた世界選手権第7日。女子62㎏級の川井友香子(至学館大)は3位決定戦でリム・ヨンシム(北朝鮮)と一騎討ち。アクティビィティタイムで先制点こそ許したが、その後は片足タックルやアンクルホールドでポイントを重ね、12-1でテクニカルフォール勝ち。前日に57㎏級で優勝している姉・梨紗子とともに、オリンピック出場(内定)を決めた。
「(3回戦で)負けて悔しい気持ちはあるけど、とりあえず最低限代表になることができたのでうれしい」。
友香子の前に立ちはだかったのは、今年のアジア選手権でも辛酸を舐めさせられているアイスルー・チニベコワ(キルギス)。ローリングに行く過程で体を入れ換えられ、フォール負けを喫してしまった。敗因を聞くと、友香子は唇を噛んだ。
「4月にも負けている相手だったので、どうしても早く点数を多くとって安心したいという気持ちの弱さがあった。途中から技が全然決まらなくなってしまった」。ここで“ジ・エンド”と思われたが、そこから友香子は復活のドラマを自らプロデュースした。
世界選手権には3年連続出場で、昨年からは「姉・梨紗子と一緒に金メダル獲得が目標」と繰り返し発言している。残念ながら今回もその願いはかなわなかったが、3位決定戦に至るまでの踏ん張りには、彼女の成長の跡を感じずにはいられない。
「後悔だけはしたくないと思って。どんなにきつくてもどんなに苦しくてもやり切ろうという気持ちでした」。敗者復活戦で再びマットに上がり、3位決定戦までに2試合を勝ち抜いた友香子は、3回戦で敗退直後に記者団の前で泣き崩れた彼女ではなかった。
「昨日の梨紗子の決勝を見て、覚悟を持って闘っていることがすごく伝わってきました。自分はその覚悟が足りなくて負けてしまったので、今日は覚悟を持ってしっかり闘うように心がけました」
友香子がマットに上がると、観客席から母・初江さんと梨紗子の声援がひっきりなしに飛んだ。「前に詰めろ、前に詰めろ」「そうそう、頭の位置」
広いアリーナで、相手選手への応援もあるので、マットで闘っている選手の耳に個人的な声援は届きにくいと思われたが、友香子にははっきり聞こえていたと言う。「梨紗子の声が一番聞こえていました。その声もあったので、(最後まで)弱気にならず強気で行くことができました」
姉より気は強いと言われているが、何かにつまずくと思い悩む性格。今回、短時間で気持ちを切り替えることができたのは、家族の支えがあったからにほかならない。「お母さんと梨紗子が泣きながら『絶対にあきらめるな』と言ってくれたので。切り替えるのに時間はかかったけど、(ここまで来られたのは)ふたりのおかげです」
念願通り、姉妹揃って挑むことになった東京オリンピック。今度こそ「姉妹で金」の願いはかなうか。
(文=布施鋼治)