※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
【ヌルスルタン(カザフスタン)、世界選手権取材チーム】日本女子の危機をキャプテンが救った-。2019年世界選手権の第6日(9月19日)、昨年は59㎏級で世界チャンピオンになっている川井梨紗子(ジャパンビバレッジ)が決勝で昨年の57㎏級チャンピオンのロン・ニンニン(栄寧寧=中国)を9-6で撃破。結果的に日本の女子では唯一の金メダルを獲得した。
第2ピリオド中盤までにタックルを中心にテクニカルフォール寸前まで追い込んだ。その後、大逆襲に転じたロン・ニンニンの猛攻を振り切った格好だ。ミックスゾーンに現れた川井は涙を拭いながら複雑な心境を語った。
「安心感もあるんですけど、反省点もすぐに出てきた。最初に9点まで取ったけど、中国の選手の力強さに6点取り返された。最後の最後でかわされたり、これが東京オリンピックじゃなくてよかった、という部分もあります。決勝でいいところも悪いところも出た感じ。東京オリンピックに向け、1年間、しっかり時間を使えるのでもっと強くなりたいです」
今大会から正式に日本チームのキャプテンに任命された川井は、決勝を前にして大きなプレッシャーがのしかかっていた。この日スタートした62㎏級準々決勝では妹の友香子(至学館大)がフォール負け。同い年で、至学館大時代に同門だった土性沙羅(東新住建)も3回戦で力尽きた。
川井のあとには76㎏級の皆川博恵(クリナップ)が決勝まで勝ち進んでいたが、この時点では金メダルは「0」。女子が2004年アテネ・オリンピックの正式種目に採用されて以降の世界選手権で、女子の金メダル獲得数が1つというのは2例のみ。ただ、いずれもオリンピック開催年に開かれた大会で、主力で固めたメンバーとはいいがたい。2016年リオデジャネイロ・オリンピックを1年後に控えた2015年の世界選手権では、3個の金メダルを獲得している。
「沙羅も友香子も負けてしまい、金メダルの望みが自分と(皆川)博恵さんしかいなくなってしまった。ひとつでも多く金を増やさなきゃいけないと思いました。初日で金メダル取れなかったことで、自分が金メダル取らなきゃいけないという思いが強かった。日本チームのためにも、友香子のためにも取らなければいけない金メダルだった」
途中で敗北を喫し号泣する友香子を目の当たりにして川井はもらい泣きしたが、最愛の妹が敗者復活戦に回ることが決まった時点で気持ちは切り替わった。「自分が決勝行く前には特に言葉を交わしたりはしてないんですけど、ハグはしました。なんとなく思いは伝わったのではないかと思います」
オリンピックを含めると4年連続世界一に輝いた川井は、日の丸を背にマットをウイニングラン。大歓声に応えた。「何回優勝しても、国旗を持って走るのは気持ちいい。やっぱり回りの人が喜んでくれるのが、やっててよかったなって思える瞬間なので」
笹山秀雄・女子強化委員長(自衛隊)は川井の成長に目を細める。「伊調選手とああいう試合をして、やはり精神的にもすごく強くなったと思います。練習の対応にしても、今までとは全然違う。(伊調選手との激闘を通して)自信をつけたなというのはありますね」
妹は銅メダルに終わったが、今も目標は姉妹で金。このままふたりで突っ走れるか。
(文=布施鋼治)