※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=渋谷淳)
2017年のフランス大会以来、2年ぶり2度目の出場となる男子グレコローマン67kg級の高橋昭五(警視庁)は、前回とはまったく違う気持ちで今回の世界選手権を迎えようとしている。「2017年は、自分が世界でどこまで行けるのか、という挑戦する気持ちだった。今回は挑戦じゃない。何が何でも勝つ気持ちでいる」。オリンピック出場のかかった大会だけに、結果への執着をはっきりと口にした。
初出場だった2年前は、大会前にアクシデントに見舞われた。8月下旬という通常より早い大会日程。1ヶ月前の全日本合宿で右足首を負傷し、診断の結果、骨膜が破れており、1週間の入院を余儀なくされ、大会への出場さえ危ぶまれた。「(8月初め恒例の)草津合宿にも参加できず、万全のコンディションを作れずに大会を迎えてしまった」。結果は3回戦敗退だった。
同門のライバル、下山田培を国内予選で下して手にした2度目の世界選手権は、前回の反省を生かし、まずは「けがをしないこと」を第一に考えてトレーニングに励んでいる。コンディショニングは今のところ順調で、「草津合宿でも地獄を見るような練習ができた。これだけやって勝てなかったらどうしよう、というくらいの気持ち」という言葉は頼もしい。
もちろん「地獄を見るような練習」は、それをしなければ世界では勝てない、という現実の裏返しとも言える。前回の世界選手権以降、多くの国際大会に出場し、メダルを獲得したこともあったが、海外勢の強さを体感し続けた2年間でもあった。
今年4月のアジア選手権では3位入賞ながらも、トーナメントの初戦で2017年66kg級世界王者の柳漢壽(韓国)に1-3で敗れた。7月の「オレグ・カラワエフ国際大会」(ベラルーシ)では、2戦目でベラルーシ選手に34秒のテクニカルフォール負け。「上体だけで差したら、そこを投げられて一瞬で終わってしまった。差せたのでいけると思ったけど、狙われていた」と悔しさを味わった。
こうした敗北で学んだのは、「自分の闘い方を徹底する」ということ。高橋のスタイルとは、派手な技とは無縁な、差し押しを軸にしてスタミナ勝負に持ち込むという“泥臭い”スタイルである。「スタミナや体力面では海外勢に負けない。前に出て少しずつ(相手のスタミナを)削って、相手の心を折りたい」というのが本人のもくろみだ。
その思いを特に強くしたのが、アジア選手権での柳漢壽との対戦だった。柳漢壽も高橋と似たタイプで、両者の一戦は「柳選手は決して自分から手を出さず、試合自体は見ていてつまらないものだった」そうだが、「柳選手はとにかく勝ちに徹している。あれだけ自分の闘い方を徹底しているから、世界選手権で優勝できた」とライバルから学んだ。
5歳年上の兄、高橋遼伍さんは総合格闘技イベント「ONE CHAMNPIONSHIP」などで活躍中の総合格闘家。「兄弟そろって世界で活躍する」との公約を掲げる兄からは、「一発で(東京オリンピック出場を)決めてくれ」と激励されているという。
「技術面、スタミナ、前に出る力を徹底して磨いてきて、2年前よりは確実に強くなっていると思う。自分の弱点も少しずつ克服してきた。あとは、本番でそれが発揮できるか。何が何でもオリンピックの出場枠を取ってきます」。一世一代の大一番を前に、高橋の闘志はみなぎるばかりだ。
2019年世界選手権=東京オリンピック第1次予選(9月14~22日、カザフスタン・ヌルスルタン) | |||
男子グレコローマン67kg級代表・高橋昭五(警視庁) 1994年10月16日生まれ、24歳。兵庫県出身。兵庫・育英高~日体大卒。165cm。高校時代は全国大会無冠。2014年JOC杯ジュニア66kg級で勝ち、全日本選手権は66kg級で3位。2015年は全日本学生選手権71kg級で優勝し、ブラジルカップで国際大会の優勝を経験。2016年は全日本選抜選手権と全日本選手権を制した。 2017年に世界選手権出場。2018年は67kg級で全日本選手権を制し、2019年アジア選手権3位。 |
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男子グレコローマン67kg級・展望 / 5位以内がオリンピック出場枠獲得、3位以内は協会規定により日本代表に内定 |