※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治、撮影=矢吹建夫)
6月8~9日に茨城・水戸市で行われた全国中学生選手権で、一際異彩を放つ姉妹がいた。女子58㎏級に出場した姉のビャンバスレン・フウラン(三重・一志3年)と、年子の妹のビャンバスレン・ハリウン(同2年)だ。
2人の両親はモンゴル人。フウランはモンゴルの首都ウランバートルで、ハリウンは神奈川県で生まれたという。「両親の仕事の都合で、1歳か2歳の時に日本に来たと聞いています」(フウラン)
レスリングは一緒に始めた。姉が4歳、妹が3歳の時だ。そのきっかけを、フウランは「もともとレスリングに興味のあったお父さん(ダシュドングさん)が『丈夫な子に育つように』という思いがあったので始めました」と話す。始めたのは、神奈川県の東海ジュニア教室だった。
2014年7月開催の第31回全国少年少女選手権(東京)では、3年生女子28kg級でハリウンが、4年生女子36kg級でフウランが優勝している。
その後、両親の転勤で三重県津市へ。偶然にも、そこには吉田沙保里さんや土性沙羅選手らオリンピックのメダリストを輩出している一志ジュニア教室があった。フウランは「三重県に引っ越してきたのは小学4年の時だった」と振り返る。「引っ越した先に、たまたまレスリング教室があった感じ」
両親や周囲のサポートもあり、ビャンバスレン姉妹は台頭するが、今大会ではフウランがベスト8、ハリウンは3位に終わった。
「相手にポイントをとられたわけではなく、アクティビティ(タイム)でとられてしまったことが悔しい。最後は負けているのに、技をかけられそうなところでかけられなかった。負けた相手とはこれから対戦する機会もあるので絶対勝てるようにしたい」(フウラン)
「準決勝ではポイントを先に取られて焦りが出てしまった。そこでタックルに入られてしまった。これからは焦らずに闘いたい」(ハリウン)
2人の国籍はモンゴル。姉のフウランは母国のナショナルチーム・カデットの部で代表になっており、予選会があるたびに帰国している。「小さい頃は2年に1回程度の割合で遊びで帰国していました。試合で帰ると自由時間がないので全然違う」
2人とも日本で生まれ育っているので、モンゴル語は聞いて理解できる程度。自分から細かい表現を話すことはできないという。「両親は『話せるようになった方がいい』と言うけど、モンゴル語の勉強を強制したりはしないですね」(フウラン)
モンゴルといえば、チャンスン・マハ(茹でた骨つき肉)などが有名だが、フラウンは「家でよく食べるけど、もう飽きた」と打ち明ける。「私はひじきや肉ジャガなどの和食の方が好きです」(ハリウン)
フウランは来春、日本の高校へ進学する予定。「できれば、至学館に進学したい」と希望を述べると、ハリウンも「私も中学を卒業したら至学館に行きたい」と目を輝かせた。
一志ジュニア教室の吉田栄利代表は「2人とも日本で鍛えられ、日本でやっているので、ほかのモンゴル人選手とは(細かい技術の部分が)違う」と目を細めた。「日本でやりながら、いつか向こう(モンゴル)の代表権をとってくるんじゃないですかね。今大会の反省を活かして頑張ってほしい」
モンゴル代表として、そろってオリンピックの晴れ舞台に立つ日は訪れるか。