※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
【西安(中国)、文=布施鋼治、写真提供=UWWオフィシャルカメラマン・保高幸子】「今は落ち込んでいるけど、世界選手権に向けて落ち込んではいられない。メダルは獲れたので、それをどうにかプラス思考に持っていきたい」
4月23日、中国・西安で行われたアジア選手権の初日。男子フリースタイル57㎏級の高橋侑希(ALSOK)は、準決勝で“宿敵”カン・クムソン(北朝鮮)に黒星。続く3位決定戦ではラビ・クマール(インド)を撃破し、銅メダルを獲得した。
クムソン戦前、ちょっとしたアクシデントに見舞われた。高橋は名前をコールされてもマットに現れない。あわや棄権、というところで、ようやく登場した。いったい何があったのか? 「ボランティアの方が呼んでくれなかったし、コーチの方からの伝達もなかった。次の試合に備えてリラックスしていました」
関係者によると、呼び出しのボランティアから一度声をかけられたが、その雰囲気から単なる名前の確認だと思ってしまったという。クムソンとは昨年のアジア大会(インドネシア)で初対決。その時も試合中にタイマーが故障し、長時間試合が中断するというトラブルに見舞われている。
高橋は「彼との闘いで、なぜかそういうことがある」と首をかしげた。今大会でも試合終了間際にタイマーがバッと消えた。「それも宿命なのかなと」
高橋は、この遅刻は試合に影響なかったことを強調する。しかし、最後まで攻めあぐね、1-3で敗北を喫した。「アジア大会の時には僕が攻めていながら、向こうが上になる攻防が多かった。クムスンのようなスタイルの選手は国内にも海外にもいない。だからそのスタイルに対してちょっと怖がっていた部分がある。そのせいで自分の動きができなかった」
高橋は潔く完敗を認めた。「クムソンは地力があり、気迫もすごい。そこは認めざるをえない。実力も向こうの方が最終的に上手だった」
国内では、一度だけ同じ相手に連敗した記憶があるが、海外ではないという。「悔しくて仕方がない。それでも応援してくれる人がいたので、最後まで頑張ることができた」
クムソンに連敗したことで、高橋は改めて自分の弱点を見つめ直す。「オフェンス力が足りない。前半から飛ばせない。そして接戦になるのが怖い」
6月の全日本選抜選手権まで2ヶ月弱。それらの弱点を払拭するために何をすべきなのか。高橋は腹を固めていた。「ひたすら追い込むしかない」
世界選手権で“三度目の正直”はあるのか。