※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
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《勝者の素顔=JWFフェイスブック・インスタグラム》
(文・撮影=樋口郁夫)
「リフト技の名手」「世界王者キラー」…。そういった代名詞がついてもおかしくない活躍を見せている男子グレコローマン67kg級の下山田培(警視庁)。昨年12月の全日本選手権と今年6月の全日本選抜選手権を連覇し、プレーオフなしで世界選手権初出場を決めた。今年2月のアジア選手権(キルギス)では銀メダルを獲得。世界での飛躍の基礎はできている。
8月のアジア大会(インドネシア)では初戦で敗れ、上位入賞はならなかった。しかし、「あの大きな舞台で闘えたことを、よかったと考えたい。結果を振り切って、世界選手権に挑戦したい」と気持ちは前向き。負けを経験することは、順風満帆にいっていたことで生じる心のすきを戒め、負けた悔しさがエネルギーとなる。
「世界王者キラー」とは、昨年11月のデーブ・シュルツ国際大会(米国)と今年2月のアジア選手権で現役世界王者の柳漢壽(韓国)を連破したことを指す。しかし、世界王者を破ったからといって、それが世界一の実力とならないのが勝負の世界。その後のブルガリアとトルコでの大会ではメダルを逃した。柳漢壽はアジア大会で優勝する一方、下山田は初戦敗退の11位。ここぞという時に勝てるのがチャンピオンであり、下山田はまだ柳漢壽を追い越したと考えてはなるまい。
言い訳にはしていないが、アジア大会は独特のムードにのまれてしまった面があるという。「地元テレビの関係者も多く、応援もすごかった。いつも通りの気持ちではなかった」と振り返る。だが、「経験したことで、耐性がついたのでは、と思います」。世界選手権では平常心での闘いが期待される。
得意のリフト技は、そのパターンになればかなりの確率で上げることができる。しかし、2013年までのルールのように、自動的にグラウンドの攻撃ができるシステムならいざ知らず、現在のルールではスタンド戦で技をかけてテークダウンを取るか、相手にコーションを科すかしなければ、グラウンドで攻撃することができない。
「そこまで持ち込めないことが多いです」。スタンドでの攻防は、カウンターを恐れて思い切っていけない一面があるという。「外国選手は思い切りがいい。思い切りいって、思い切り返される可能性もある」と、最後の部分でブレーキがかかってしまうという。この部分を、どう克服するか。
キッズ・レスリングを経て強豪・霞ヶ浦高校でレスリングを続けたが、高校時代に全国王者はなく、団体戦のレギュラー選手ではなかった。大学では、トップ選手にはあまり回ってこない学生連盟の委員に指名され、大会では補助役員やレフェリーをやりながら試合に出場。卒業まで続けた。
それでも3年生(2015年)の全日本学生選手権66kgでは、同年のアジア選手権59kg級2位と台頭を始めた太田忍(日体大=現ALSOK)をテクニカルフォールで破って優勝する殊勲。名前の通り、培ってきた実力を一気に開花させて全日本のトップに躍り出た。
初めての国際大会は2016年2月のアジア選手権(タイ)だから、国際大会の経験は2年半しかない。それでも、日体大の道場では太田のほか、井上智裕(72kg級代表=2016年リオデジャネイロ・オリンピック66kg級5位)ら世界トップレベルの選手と連日練習できる。かつて勝ったことがある太田はオリンピック銀メダリストに成長し、「練習では押されることが多い。本当に強い選手」と、今では目標とする練習相手。国際大会の経験値の低さは十分に補えるものがある。
「世界選手権までに、しっかり追い込み、けがをしないことを気をつけたい」。遅咲きの日本代表が初の世界選手権に挑む。