※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
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(文=布施鋼治)
9月中旬の全日本合宿の練習後、記者の前に現れた男子グレコローマン63㎏級の遠藤功章(日体大)の顔には大きな引っかき傷があった。「今日、太田忍先輩と練習している時にできたみたい。技術も体力も気持ちの面も、自分より断然強い。僕にとって太田先輩は大きな目標です。最近はグラウンドで返せたりすることもあるので、そこはちょっとずつ自信になっていると思います」
今年6月の全日本選抜選手権。優勝経験のない遠藤は全くのノーマークだったが、豪快なバック投げを武器に初優勝を果たした。「あの優勝を自分ではどうとらえているのか」と聞くと、遠藤は照れ笑いを浮かべながら答えた。「63㎏に落としたら、優勝できると思っていました」
たかが3㎏、されど3㎏。それまで66・67㎏級闘う機会の多かった遠藤が63㎏級に落とすには相当の苦労を要したという。「1カ月半くらいかけて、(通常体重から)10㎏くらい落としました。しんどかったです。途中、68㎏くらいから全然落ちなかったので、本当にきつかったですね」。
それからどうやって落としたのか? 「忍先輩からもアドバイスをもらって、食事の面で徹底的に工夫しました。炭水化物をとるのは練習前だけで、夜は極力量を少なくしました。きつかった。今でも(体重を維持するのは)しんどいですけど」
けがで戦列を離れていた昨年の世界選手権グレコローマン59㎏級優勝の文田健一郎(ミキハウス)も復帰しつつある。太田同様、文田も遠藤にとっては特別な存在だ。「文田さんは胸を合わせた時の圧力がすごくて、四つ組みになったら全然太刀打ちできない。四つ組みは(太田より)文田先輩の方が圧力を感じます。まだ2人とも遠いところにいる。早く追いつかなければと思いますね」
今年7月には初めてのヨーロッパ遠征でトルコの国際大会に出場した。初戦敗退に終わったが、遠藤にとってはすべてがいい経験だった。「日本とは食事の面が違っていたので、そこが難しかった。トルコ料理も美味しかったけど、自分としては日本食の方がしっくりくる。だから世界選手権には真空パックのご飯をたくさん持って行くつもり。トルコにはそれをちょっとしか持っていかなくて失敗したと思ったので」
今回は初めての世界選手権出場ながら、目標はもちろん優勝だ。「海外で通用する武器はグラウンド。そうなったら、得意のリフト技で必ず点数を稼ぎたい」
世界の舞台で遠藤が通用しそうなもうひとつの武器─、それはプレッシャーにとてつもなく強いという点だ。「試合になっても全然緊張しない。小さい頃は柔道をやっていたけど、その頃からずっとそうなんですよ」。それだけではない。遠藤の表情からは不安も感じられない。なぜ? 「だって、(63kg級の強豪より)忍先輩の方が強いと思うので。世界の舞台で自分がどれだけできるのか、今は楽しみの方が強い」
ふたりの偉大な先輩にもまれた男は。強心臓を武器に、いきなり世界一を狙う。