※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
《JWFデータベース》 / 《UWWデータベース》 / 《国際大会成績》 /
《勝者の素顔=JWFフェイスブック・インスタグラム》
(文=布施鋼治)
「世界選手権では、ひとつひとつ勝っていくだけです。優勝すると言いたいけど、アジア大会(インドネシア)の結果が結果だったので、そんなことは言えません」。男子フリースタイル86㎏級代表の白井勝太(日大大学院)に初めて出場する世界選手権の抱負を聞くと、本音をぶちまけた。「まずはベスト8。ひとつひとつ勝っていけば、その先にはメダルがあると思っています」
活躍が期待された先月のアジア大会は、1回戦こそシリアの選手にフォール勝ちを収めたが、2回戦ではラシド・クルバノフ(ウズベキスタン)に0-4で黒星。8位に終わった。敗退直後、日本協会の福田富昭会長と富山英明監督は白井の試合運びを残念がっていた。「白井の方が攻め切っているのに…」(富山)
確かに試合の主導権を握っていたのは白井の方だった。それが得点に結びつかない。白井は「勝てる試合を落とした」とうなだれた。「0-4といっても、コーション2つとラスト20秒で決められたがぶり返しでの失点。対照的に、僕はタックルで3回入ったけど、そのあとの処理がまずかった。単純に自分の技量不足だったと思います」
現在は改善に向かって修正中。具体的にどんな練習をしているのかと水を向けると、白井は少しだけ明かしてくれた。「僕はタックルに行く時に低く入りすぎるくせがある。アジア大会でもその悪いくせが出てしまった。今は低く入りすぎないように微調整しています」
その一方で、86㎏級の現在を体感することができたことは「収穫だった」と振り返る。「ルールが変更されたせいかもしれないけど、今、この階級の選手はパワー志向の選手が多くなってきている。技がうまくて上位に君臨しているわけではない。パワーで来るということは攻め方も限られてきますからね」
だったら、どう対処するのか。白井は相手のパワーレスリングに耐えられるだけの最低限の体力が必要と話し始めた。「僕は不器用で身体の使い方が下手なので、筋トレとは別に、使い方のためのトレーニングを始めました。そんなに難しいことをやっているわけではないので、効果はすぐ現れると信じています」
持ち味はガンガン前に出るレスリング。この階級ではスピードが飛び抜けていると自負する。自分次第で結果は変わると信じている。「僕の武器は片足タックル、ハイクラッチ、頭を落とすフェイント。もう新しい技を覚えることは諦めている。不安? ないです。今やれることをやればいいだけの話なので」
現在の目標は東京オリンピックで金メダルを獲ることだが、白井には胸に秘めたもうひとつの想いがある。「こんな不器用な人間でも、メダルが獲れることを証明したい。僕は不器用の象徴として頑張ります!」
球技は苦手で、レスリングでも使える技は限られている。それでも、試合になったらめっぽう強い。白井はそんな“不器用な王者”になれるか。