※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=布施鋼治)
「自分のスタイルを貫けなかった」。ジャカルタ・アジア大会の第2日(8月20日)に行われた女子50㎏級決勝。入江ゆき(自衛隊)はビネシュ・ビネシュ(インド)と争ったが、第1ピリオド開始早々、いきなり腰を取られてニアフォールに落ち込まれる苦しい展開に。その後、タックルで逆襲しようとしても、懐の深いビネシュにがぶられ、動きを止められてしまう。
結局、2-6で敗れて銀メダルに終わった。ビネシュとは今年3月のアジア選手権(キルギス)の準決勝で初めて顔を合わせ、僅差で敗れているので返り討ちにあったことになる。
事前取材で「ビネシュのどんなところが強かったのか?」と聞くと、入江は「手足が長い分、(相手の攻撃に対しての)処理をきちんとしないと」と話し始めた。「そうしないと自分で攻めていたのに、失点するというところがあるので」。
試合展開を見る限り、前戦の教訓が活かせていたとは言い難い。敗因について突っ込まれると、「練習が足りなかった」とつぶやいたいたのは、偽らざる心境だろう。「やっぱりビネシュは自分より背が高く、リーチも長い。距離が遠くて詰められなかった」
とはいえ、準決勝までの入江の動きは決して悪くなかった。準々決勝は、地元の盛大な声援を背に入江に挑んできたセティワティ・エカ(インドネシア)を相手にせず、準決勝ではマークしていた選手の一人であるキム・スンヒュン(北朝鮮)を相手に13-4で快勝している。
ビネシュとの初対決と比べたら入江も成長していたが、それ以上にビネシュの方が成長していたのだろうか。いみじくも入江は言う。「日本だけではなく、世界のレベルもどんどん上がっていることを実感しました」
離日前、自衛隊体育学校の先輩で2012年ロンドン・オリンピック金メダリストの小原日登美・自衛隊コーチから「緊張しすぎず、集中していつも通りに」というアドバイスをもらっていた。「それはできたと思うけど、(別の)課題も出てきたと思います」
ミックスゾーン(取材エリア)で記者団からあの手この手で敗因を聞かれても、入江は首尾一貫として「自分のスタイルを貫けなかった」の一言に終始した。入江が語る自分のスタイルとは何なのか。それは無心で闘うレスリングだ。
ここ1年で入江にとってのベストファイトは、世界チャンピオンになったばかりの須崎優衣(現・早大)を相手に1点も失うことなくテクニカルフォール勝ちを収めた昨年12月の全日本選手権での一戦だろう。
「特に何も考えていなかったのが、よかったんだと思う」。対照的に今年7月、逆転負けを喫した須崎とのプレーオフでは無心でなかったと打ち明ける。「攻めよう、守ろう、のどっちの気持ちもあって。中途半端だった」
もう一度無我の境地へ。試合後の会見での入江は相変わらず多くを語ろうとしなかったが、最後に次の目標を聞かれた時の一言だけは力強かった。「(今年12月の)天皇杯で優勝して、(来年の)世界選手権やオリンピックにつなげたい」