※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治)
日本の女子57㎏級は、南條早映、花井瑛絵(ともに至学館大1年)ら若手の台頭があれば、55㎏級の元世界チャンピオンの浜田千穂(キッコーマン)も虎視眈々と代表の座を狙う群雄割拠の階級。その中でも坂上嘉津季(ALSOK)は頭ひとつ抜け出た活躍を見せている。
6月の全日本選抜選手権の初戦では、成長著しい南條を相手に「まだあなたには負けない」と言いたげな意地とプライドを示した闘いを繰り広げ、8―8のスコアながら、ラストポイントを取った坂上が勝利を収めたことは記憶に新しい。
坂上は「周囲から見ればバタバタした試合だったかも」と反省することを忘れない。「ただ、私は平常心を保ちながら闘うことができた。あそこでパニックになっていたら、南條に大量失点して負けていたと思う。気持ちが落ち着いていたから、最後もポイントを取れたんだと思います」
坂上は典型的なスロースターター。2度目の出場となった昨年の世界選手権(フランス)では、初戦で何もいいところを見せられないまま敗退した。アジア大会出場は今回が初となるが、世界選手権の反省も踏まえ、初戦が肝だと感じている。「自分は初戦が苦手というところがある。相手が強くても弱くても最初は動きが硬い」
吉田沙保里が前回のアジア大会でフォール寸前まで追い込まれた場面もテレビで目の当たりにした。その一方で自らの国際大会の経験からアジアは強豪だらけということも痛感している。「みんなスタミナもパワーもある。どこの国の選手と当たっても簡単には勝てないと思う」
マークすべき選手はごまんといる。「たとえば、リオデジャネイロ53㎏級金メダリストのヘレン・マルーリスにも勝っているインドのプジャ。あとは去年のアジア選手権の準決勝で私が負けているキルギスのアイスル。でも、アイスルは中国オープンでも59㎏級(2㎏オーバー計量)で出ている。57kgまで落としてこられるのか疑問に思います」
アジア選手権の1回戦で勝利を収めているとはいえ、坂上は韓国の代表も不気味な存在と続けた。「たまたま私の投げがかかっただけで、それまでは自分が負けるかと思っていました。本当にギリギリの勝負でしたね」
当初はいろいろな選手をマークしようと思ったが、あまりにも強敵が多すぎるので方向転換。坂上は「自分の実力を出し切ったうえで優勝したい」と切り出した。「間違ってもアジア大会は世界選手権の肩慣らしのような大会ではない。少なくとも私はいっぱいいっぱい。気持ちをさらに引き締めて臨みたい」