※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=保高幸子)
味の素トレーニングセンターで合宿中の男子両スタイルの全日本チームが6月27日、日本オリンピック委員会(JOC)が行うインテグリティ(誠実、真摯、高潔)教育の一環として講習を開き、合宿参加選手全員が受講した。
講習会では、藤川健治ナショナル・アシスタントコーチの講話のあと、警視庁制作の講習DVDを視聴。反社会的勢力がトップスポーツ選手をだましてお金を取ろうと企んでいるという事案を詳しく描くドラマ仕立ての内容で、どの選手にも起こり得る事象。だれもが真剣に見入った。
反社会勢力はどのようにトップスポーツ選手に近づいてくるのか、どうして狙われるのか、なぜだまされてしまうのか、などが提起され、それらと関わりあいにならないためには、どのようなことに気をつけなければいけないかなど、スポーツ選手に特化した内容で、選手にも身近なことであると伝わったよう。
泉武志(一宮グループ)は「今楽しければいい、というように安易に考えるのではなく、先のことを見据えて気を引き締めていきたいと思いました」と教訓を得た様子。井ノ口崇之(自衛隊)は、以前に競技や年齢を超えたスポーツ関係者の勉強会で実際に体験した話を聞いたこともあるそうで、「いろいろなやり方でスポーツ選手に近づいてくる人がいると聞いていた。今日の講習で改めて肝に命じました。仕事、人生、レスリングのすべてを台無しにするようなことがないよう、日頃から気をつけていこうと思います」とかみしめていた。
藤川コーチは「自分さえよければいい、今さえよければいい、という考えは持たないでほしい。自分たちの立場をよく考えて危機管理してほしい」と強く訴えた。
今後も、部外から専門家を呼ぶなどし、対薬物犯罪や交通安全、コミュニケーションついて、またソーシャルメディアの使い方などモラル全般について、様々な講習を行っていく予定。
《ケース1》
OBの先輩に「いい気分転換があるから」と連れて行かれた場所は違法カジノだった。断ったが「5万円やるよ。10倍になることもある」とほだされて中へ。そこでは、サッカー選手だとばれていた。何度か行った後、サッカーに集中しようと甘い誘惑を断ち切った。
練習に励み、2年後に日本代表に招集されたところで脅しの電話。ゆすられて、口止め料を払ってしまい、何度もお金を取られた。どうしようもなくなって警察に相談に行き、そして公表。代表を外されてしまう。
無名の選手だし、先輩の誘いだし、と軽い気持ちで入ってしまったことがよくなかった。ちやほやされて浮かれていた。
→ 過去にやったというだけでも脅されることもある。カジノに行っていたのも2年前。一度口止め料を払うと、何度も払うことになる。選手生命、仕事、家族、全て失うことになる。もし脅されたら、早く解決するためにも、すぐに警察に相談。過去の過ちを認め反省したことで、復帰できている。 |
《ケース2》
少し名の知れた水泳選手A。飲み屋で「A選手だよね?」と言われ、仲よくなった優しいおじさんに、「応援している」と言われ、何度か食事に連れて行かれる。ある日の帰り、一緒に歩いていたおじさんが体調を崩し倒れ込んでしまう。そこに通りかかった女の子がハンカチを貸してくれ、救急車を呼びに行ってくれた。
おじさんに「お礼をしたいから連絡先を聞いておいて」と言われ、女の子と連絡先を交換。そのうちに20歳だというその女の子と恋仲になる。少し経つと急に連絡が取れなくなる。ある日、彼女の兄を名乗る男から「スポーツ選手が未成年に手を出していいと思っているのか?」と脅され、おじさんに相談する。
おじさんは「大丈夫、なんとかできると思う、実は俺もヤクザなんだ。300万円ほどあればカタをつけられる」と言われ、必死にお金をかき集め渡す。実は3人はグルだった。
→見た目は普通でも、暴力団員であることはよくある。見た目で見分けることはできない。素性のよく分からない人に食事を世話になったり、深く付き合ったり、大切なことを相談したりしてはいけない。「表沙汰になったら困るだろう、助けてやる」と言われてお金を取られるのは、常套(じょうとう)手段。そういう時は、信頼できる人や公的な窓口に相談しましょう。 |
※本合宿は競技力向上事業の助成を受けています。