※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)
全国中学生選手権の男子53kg級は、JOCエリートアカデミー所属の高橋海大(東京・稲付3年)が、同大会最激戦区の111人がエントリーしたトーナメントを勝ち抜いて連覇を達成。全6試合をすべて第1ピリオドのテクニカルフォール勝ちとダントツの強さが評価され、最優秀選手賞の沼尻杯を受賞した。
「強いな~」と高橋が登場する度に、周囲から漏れるため息。体格に加えて身のこなしは、会場に一人だけ高校生がいるような存在感があった。最も苦戦した準々決勝でさえ1分39秒という圧勝ぶり。MVP選出に、「文句なしの出来だった」と沼尻久会長が称賛した。
高橋は「全部の試合をテクニカルフォールで勝てたけど、ディフェンスがまだまだだった。練習してきたがぶりからのバックポイントが取れたら、もっと楽に試合を終わらせられたのに」と、自己採点は満点ではない様子。向上心のかたまりが高橋の強みだ。
1年時は、地元の静岡・焼津ジュニアの所属、2年生からアカデミーに入所した。親元を離れるなど環境は大きく変わったが、高橋の夢は「オリンピックに出ること」。アカデミーに入ることは、その実現への第一歩だった。
「スピードには自信があります」と、得意技はタックルで攻めてグラウンドへ続く連続技。同じ静岡県出身で2008年北京オリンピック銀メダリストの松永共広に憧れをいだき、「松永さんの銀メダルを超えてみたい」と目を輝かせる。
アカデミーの江藤正基コーチは、「去年から今年にかけて非常に伸びてきている。以前は失点することが多く、その課題克服のため、足を触らせない練習をしてきた」と振り返る。アカデミーの指導方針は、将来強くなるための指導がメーン。足を触らせていたら、体が成長してきた時に思うように勝てなくなることを見越した練習が、6試合無失点につながった。
高橋はアカデミー10期生となる。アカデミーのスタート以来、女子では世界チャンピオンも誕生し、アカデミーの実績がシニアでも記録を積み重ねるようになったが、江藤コーチは「男子のOBはまだ5人しかいないんですよ」と苦笑する。それでも、近年ではアカデミー出身の選手がシニアで活躍するようになっている。1期生の白井勝太(日大大学院)はアジア大会代表となり、乙黒圭祐、拓斗兄弟(山梨学院大)もシニアの若手のホープに成長した。
「短いですが、アカデミーも伝統ができて、その成果に刺激される部分もあると思う。先日、10年目のパーティーをやったんですよ」(江藤コーチ)。高橋には、心強い先輩たちがたくさんいて、全日本合宿のたびに顔を合わせてエールをもらうこともあるだろう。
アカデミー11年目の初夏、さらなる発展を予感させる高橋の優勝だった。