※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
猪木 強化に関して言えば、レスリングは中学の実施校が少ないと聞いています。ちびっ子選手はたくさんいるのに、継続していかないのですよね?
栄 その通りです。学校のクラブ活動としてレスリングができる環境がないので、他のスポーツに流れる選手が多いのが、長いこと続いている現実です。学校教育の中にレスリングがあるかないかは大きな違いです。少子化で、先生になりたいという人が少なくなってきていることもあって、中学レスリングの活性化はうまく進みません。
馳 二つの問題があります。ひとつは、全国中学生体育連盟(中体連)と全国中学生レスリング連盟が連携し、中体連に加盟はしていないけど、中学校の教育現場にいる子供たちがレスリングに親しみ、大会に出ることができる環境作りをすることです。
猪木 総合格闘家の宮田君(和幸=日大OB)の熱意もあって「アントニオ猪木元気杯」という少年少女の大会を開催しています。そこで闘った選手が、そのまま中学、高校と活躍してほしいですね。
馳 少年少女選手を高校に結びつけていくためのネックが中学なんです。クラブチームはそのままでいいけど、中体連の競技活動とうまく連携していくのがひとつの課題になりますね。もうひとつの問題は、全国の教員の30パーセントは50代なんです。あと10年で多くの人が退職していなくなります。レスリングの指導者も然りです。レスリング指導者も40代後半から50代がほとんどです。このままだと、レスリングの指導者がいなくなります。各大学の監督やコーチに、学生選手にできるだけ教員免許を取らせるようにお願いしています。心と体を指導できる教員を増やすことに取り組んでいかないといけませんね。
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栄 いい選手を育てることだけが、いい指導者ではない。いい指導者をつくることも、指導者の役目のひとつですね。
馳 私たち国会議員は、選手を強化費で応援をしますが、コーチや監督などの処遇改善も応援します。ナショナルトレーニングセンターなどの施設を充実させることもやってきました。そういうところで、存分に私たちを使ってほしいです。
猪木 その昔、「スポーツと政治は別」と言われることがあった。今では政治がスポーツを利用しているという時代で、スポーツを通じて発信することができるんです。
馳 私が今日、ここ(国会)にいるのは猪木さんのおかげなんです。猪木さんがスポーツ平和党を1989年に立ち上げたとき、秘書をさせてもらいました。演説で日本全国を回り、猪木さんが何をしゃべるのがずっと見ていました。スポーツが世界の平和に貢献していく可能性があり、政治の舞台でも発揮できるんだということが分かりました。「プロの政治家にはできないことをオレ達にはできるんだ」というのを証明するのがスポーツ平和党の原点でした。その6年後に私が石川県から参議院選挙へ出馬したことにつながったのです。
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猪木 世界平和のためにスポーツを活用することができる一方、政治を超えた所にスポーツは存在しているのです。
馳 政治の面から、誰が代表になっても世界のトップレベルの選手になれるように尽力したい。
猪木 東京オリンピックへ向け、レスリング界の健闘を期待しています。
馳 ただ、金メダルを獲って人生が終わりではなく、それによって得た地位や名誉をよい方向に行使していくことが大切です。
栄 競技力だけではなく、人間力を磨くことを忘れずに選手を鍛えたいと思います。
(完/構成=増渕由気子、樋口郁夫、対談撮影=保高幸子)