※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子)
22年ぶりの7階級制覇、実質的に初の快挙を達成した日体大
7階級優勝でも笑顔なし―。全日本大学グレコローマン選手権で総合優勝を果たしたのは、66kg級に59kg級の世界チャンピオン、98kg級に世界選手権代表を据えて臨んだ日体大だった。130kg級以外はすべて金メダルという快挙で、2年連続17度目の優勝を決めた。
ひとつの大学が7階級で勝ったのは、10階級時代の1995年の日体大以来で、8階級下では初めて。「1階級だけ取れなかった」という見方をすれば、1989年に大会が始まって以来、初めての快挙となる。
8月の全日本学生選手権で4階級制覇を果たしたメンバーに、世界選手権代表の2人が合流。松本慎吾監督は「文田が世界選手権で金メダルを獲ってチームの核ができ、チームに安定感があって、他の選手が落ち着いて試合ができた。4年生中心ということでまとまった」と、絶対的エース・文田がチームをけん引したことを勝因に挙げた。
「餅は餅屋」という言葉があるように、グレコローマン専門の集団の強さは卓越していた。他のチームと日体大の違いは、日体大はレギュラー全員をグレコローマン専門の選手で固めていることだ。これも人材豊富なチームだからこそできること。
他のチームは、フリースタイル専門の選手がレギュラーメンバーになって数多く出場した。75kg級には、世界選手権フリースタイル70kg級で銅メダルを獲得した藤波勇飛(山梨学院大)が出場して準決勝に進出したが、その藤波を林雷がグレコローマン技でしっかり下した。
80kg級の勅使川原延明は全日本学生選手権2位から順位を上げての初優勝だった。世界トップの現役選手に刺激されたメンバーの底上げが、大学対抗得点84点につながり、2位の拓大(44.5点)にほぼダブルスコアの差をつけた。
これだけ勝っても松本慎吾監督の表情は厳しいままだった。「8階級獲れなかった。130kg級も3位以内に入ってほしかった」とポツリ。優勝した選手の内容に関しても、「全日本選手権に向けて、まだまだ課題が残った」と話した。
2020東京の主役になり得るのは今の大学生とあって、松本監督は学生レベルのその先を常に見つめている。それだけに、学生の大会で勝ってよかったという気持ちにはなれないのだろう。「全日本選手権で勝たないと、その次のステージに進めないので」。日本協会のグレコローマン強化委員長として、大学生の若さで世界で闘える選手を一人でも増やしたい気持ちが垣間見えた。
もうひとつ、松本監督の表情が厳しかった理由がある。日体大から7人の優勝者を出したことは、所属監督としてはうれしいことだが、ひとつの大学が勝ちすぎてしまう学生グレコローマンの現状については、手放しでは喜べない。ナショナルチームのコーチとして「このままではいけない」と警鐘を鳴らしていた。