※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
【パリ(フランス)、文=布施鋼治】敗者復活戦に敗れた赤熊猶弥(自衛隊)はうつむいたまま記者団の前に現れた。ウウウッ-。かすかに聞こえて来たのは嗚咽(おえつ)だった。数秒間の沈黙。涙を流しながら、赤熊はようやく口を開いた。「く、悔しいです」
赤熊にとっては初めての世界選手権。マメド・イブラギモフ(カザフスタン)との敗者復活戦では闘志が空回り。手さばきなどのフェイントや崩しのあるアタックが少なく、テクニカルフォール負けを喫した。
「試合前、相手のビデオもしっかり見たけど、自分の技術が足りない。タックルのよさが全然出ていなかった。タックルが入ったら勝てる相手だったと思うけど、うまくいかなかったです」
2試合目の3回戦ではリオデジャネイロ・オリンピックの金メダリスト、カイル・スナイダー(米国)と対戦する機会に恵まれた。結果は自分がやりたいことは何ひとつできぬまま、テクニカルフォール負け。赤熊は「さすが世界チャンピオン!」と脱帽するしかなかった。
「相手のタックルを切ったと思った場面もあったけど、そのまま押されていました。今までやってきた選手の中ではダントツに強い」
組み手の強さもけた違い。自分の組み手も全くといっていいほどさせてもらえなかった。「懐に入ってもとれない。自分の実力では、まだまだ闘えない状況だと思いました」
ただ、自分との差がはっきり見えたことは大きな収穫だった。「チャンピオンと互角の勝負が繰り広げられるようにならないと。そうでないと、オリンピック(での活躍)は難しい」
前日には年下の高橋侑希(57kg級)が男子フリースタイルでは実に36年ぶりとなる世界選手権金メダル獲得した。それを目の当たりにして大きな刺激を受けた。「(軽量級だけではなく、)重量級でも世界選手権で上位を目指すことができるように頑張りたい。まずは自分のタックルを1から磨き直して、ウエートトレもしっかりやっていきたい」
日本軽量級も一時は不振にあえいでいた時代もあった。強いクマになって、重量級でも歴史に風穴を空けられるか。