※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
【パリ(フランス)、文=増渕由気子】アカデミーで金メダル一番乗りだ! 世界選手権女子48kg級は、JOCエリートアカデミー(JWA)所属の須崎優衣(東京・安部学院)が5試合を勝ち抜いて初優勝を飾った。「世界チャンピオンになるために厳しい練習をしてきたので、それがかなってうれしいです!」
いつも笑顔いっぱいの須崎が、うれしそうに泣いていた。弱冠18歳。前日に金メダルを獲得した55kg級の奥野春菜(至学館大)と同じ伊調馨以来15年ぶりの快挙達成。こちらは“高校生の世界チャンピオン”というおまけつきだ。
JWAの事業が始まって9年が経つ。昨年は先輩の向田真優(至学館大)がアカデミー出身で初めて世界選手権(55kg級)を制し、他競技では卓球でアカデミー選手が活躍している。
生粋のエリート軍団の中でさえ、須崎の経歴は群を抜いてる。今大会にかける想いはそこにあった。「今年がアカデミー最後の年。アカデミー在籍中に世界チャンピオンになって、1からレスリングを教えてくれたコーチたちに恩返しがしたい」。そう思って、マットに上がった。
1回戦からタックルでテークダウンを奪うと、すぐさまローリングなどで加点した。「(5月の)アジア選手権の時にグラウンドに課題があったので、グラウンドで得点できるようにしました」。課題も克服し、自分の理想通りのレスリングを展開し続けていた。
だが、世界選手権は須崎にとっても異次元の世界。「予想以上に世界選手権の選手が強かった」とレベルの高さに舌を巻く。冷や汗をかかされたのは準決勝のキム・ソンヒャン(北朝鮮)との対戦。4-2とリードするも、2点差はアタック1本で逆転される差。そのスコアのまま終盤へ突入した。
「最後まで攻めることができなくて、守りに入ってしまった」と須崎の攻撃が止まると、相手が背後を奪って須崎をマットにたたきつけた。明らかに時間外だったが、ヒヤリとした瞬間だった。
国内外で競った試合がほとんどない須崎にとって、納得のいかない内容なのは明白。「もんもんとしてしまって…。でも、決勝前に吉村(祥子)コーチに全部話して、整理整頓して決勝戦に臨みました」。
ところが、決勝戦では先に失点してしまい、追いかける展開に。ここで須崎の本領が発揮した。「投げられてしまったけど、金メダルは絶対自分が取るんだという強い気持ちをもって闘いました」。決め手になったのは、強化してきたグラウンドでの攻撃。ローリングを何度も決めて最後はテクニカルフォール勝ちだった。
ウイニングランの1週目は中学、高校とお世話になったセコンドの吉村コーチを肩車して回った。吉村コーチは目頭を赤くして「本当に幸せ」と涙。アカデミー生としての世界チャンピオンは初の快挙。「他競技でもできなかったことだね」との問いかけに、「シニアの金メダルは初めてなのでうれしい」と笑顔がはじけた。
27人目の世界女王の誕生。目標だった世界は制した。だが、女子最軽量級は国内外に素晴らしい選手がたくさんいる。リオデジャネイロ・オリンピック金メダルの登坂絵莉(東新住建)も現役を続けている。
「次の目標は東京オリンピックで金メダルを獲ることです!」。須崎の目にはっきりと東京オリンピックの道が見えてきた。