※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
【パリ(フランス)、文=布施鋼治】「リオデジャネイロ・オリンピックのチャンピオンになることはできたけど、世界選手権のチャンピオンにはまだなっていなかったので、これでようやく真のチャンピオンになれたと思います」
2017年世界選手権の女子69㎏級で優勝した土性沙羅(東新住建)は、笑顔で初めての世界Vを振り返った。土性が語る真のチャンピオン──、それは世界選手権とオリンピックでそろって金を獲ることを指す。「オリンピックで金を獲っても、世界選手権で負けたら何を言われても仕方ないじゃないですか」
振り返ってみると、最も苦戦を強いられたのは初戦(2回戦)のコウムバ・ラーロク(フランス)だった。オリンピックの金メダリストから地元のラーロクが先制点を奪うと、観客席は大騒ぎ。それでも、奪われたらすぐ奪い返す戦法が功を奏して、ラストポイントを守り抜く形で3回戦に進出した。土性は反省することを忘れなかった。
「一度タックルに入った時に切られてしまったので、もう一回入った時にさらに点数を取られたらどうしよう、という気持ちになってしまった」
しかし、一度闘うことで肩の荷が降りたのか、3回戦からは尻上がりに調子を上げ、1点の失点も許さなかった。かつていたずらに点数を奪われることが多く、その点を課題にあげられていた土性にとっては大きな成長だろう。
「無駄な点をやると、あとから追いつけなくなったりする。だからなるべく点をやらないことを意識しながら闘っていました」
リオデジャネイロ・オリンピックを制したことで、今まで以上にマークが厳しくなることは承知の上だった。もともとパワーの強い外国選手に対して真正面からパワーで対抗しても勝ち目はない。対戦相手がパワー勝負に出てきた時には徹底的にいなす。
案の定、この日の土性は正面から組もうとしたり、タックルに来る相手は前方、あるいは左右に払って、力VS力の勝負を避けた。栄和人強化本部長から「一生懸命やってこい。チャンピオンになってくるんだぞ」と背中を押され、リラックスして試合に臨めたことも大きい。
「いつも試合前になると、緊張で自分の世界に入り込んでしまう。周りのコーチからも直した方がいいと指摘されていました。でも、リオの時は緊張せずやれたんですよ。いつもは周囲と会話できないくらい緊張するけど、今日はリオの時と同じように普通に喋ったり笑ったりしながら試合に臨むことができました」
今大会、女子は8階級中4階級で金を獲ったが、栄総監督は土性と川井のリオデジャネイロ金メダリスト組の試合を評価した。「とにかくオリンピックチャンピオン(の安定した強さは)は違う」
真のチャンピオンの視線はすでに2020年の東京オリンピックに向いている。