※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 広島から応援に駆け付けた家族とともに。左から母・ゆかりさん、妹・真寿美さん、河名真寿斗、父・英樹さん
同級は世界選手権代表となった文田健一郎(日体大)とリオデジャネイロ・オリンピック銀メダルの太田忍(ALSOK)の“2強時代”が到来した感があるが、それに続くのが河名だ。昨年は学生二冠王者(59kg級と71kg級)になり、この冬はデーブシュルツ国際大会(1月)などで優勝し、存在をアピール。今年の世界選手権出場も狙っていた。
だが、全日本選抜選手権では準決勝で太田に逆転負けを喫し、世界選手権への道は断たれた。あれから2週間。悔しさは残っているが、「もし66kg級で勝てたら自信になると思った」と、開き直ってマットへ。だが、準決勝は“お祭り気分”ではいられない相手が立ちはだかった。
全日本選抜選手権で河名と同じ3位だった清水早伸(自衛隊)。初対戦だ。「清水さんはどんな大会でも3位以内に入ってくる選手。体力もあるしポイントを獲りづらい」と警戒していたが、絶対に負けたくない気持ちがあった。あの2人に最も近いポジションは「自分だ」ということを証明したかったからだ。
大技は出なかったが、押し負けなかった河名が2-1で清水を下して決勝に駒を進め、そのまま決勝でも大勝した。
■影響を受けたのはフリースタイルのオリンピック王者、佐藤満コーチ
河名は身長170cmと、軽量級では背が高く、小柄な選手と闘う時は、すぐふところに入られてしまう課題があったが、最近はそれを逆手にとって自分のポイントにつなげている。「入られた時、どれだけ早く処理して自分の形に持っていくか。ちゅうちょせず、一気に技をかけることが今日はできた」。
決勝でさく裂したバック投げ
今のルールは、パッシブによるグラウンド攻撃がなく、スタンドでの一瞬の攻撃が勝敗を分ける。河名は「自分に合っている」と自負する。技をかけるタイミングは、わずか1秒にも満たない瞬間の瞬発力がものを言う。「どの形だと技を出せるのかどうか、どの形だと守れるのか、研究するのがとても楽しいです」。
この春からクリナップの所属選手として2020年東京オリンピックを目指す。拠点は母校・専大のまま。グレコローマン専門だが、レスリングの影響を受けているのが、ほかならぬ1988ソウル・オリンピックの男子フリースタイル52kg級金メダリストの佐藤満コーチだ。
河名は「間合いや組手のバランス感覚は両スタイル変わりません。それを教えてくれるのが佐藤コーチ。最近、『少しはその感覚が分かってきたな』と言われたんです」と、うれしそうに話した。
フリースタイルの軽量級では、同期の中村倫也(博報堂DYスポーツ)が、リオデジャネイロ57kg級銀メダルの樋口黎(日体大)を破って61kg級の世界界選手権を決めるという番狂わせがあった。文田や太田という大きな壁に挑む河名にとって、刺激になったのは言うまでもない。
「うれしかったし、刺激になったけど、同期に先を越されたという点では悔しいですね」と苦笑した。しかし、中村からは強いメッセージが伝わってきた。―強いやつに勝つことは不可能じゃないんだ―。夢の東京オリンピック出場に向け、河名がさらに飛躍する!