※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫) 文田健一郎(日体大)
昨年12月の全日本選手権で太田に勝って優勝した文田だったが、2月のグランマ&セーロ・ペラド国際大会(キューバ)の決勝で太田と再戦し、敗れて2位だった。「(太田先輩に)負けて悔しかった。アジア選手権で優勝したけど、この大会に向けて(勝つために)全力で調整した」とリベンジに燃えていた。
“打倒太田”の気持ちを強く持ちすぎたためか、準決勝の清水早伸(自衛隊)戦では、ラスト30秒に逆転するというヒヤヒヤした試合となってしまった。一度寝て、気持ちをリセットして決勝への準備を進めていた時、“事件”が起こった。文田と同級生で、リオデジャネイロの男子フリースタイル57kg級で銀メダルを取った樋口黎(日体大)が決勝で敗れた。
「びっくりした。けれども、初日に同級生の奈良勇太(男子グレコローマン98kg級)が世界選手権出場を決めたことが大きかった。置いていかれるわけにはいかないと思った」と、樋口が負けたショックを引きずらずに太田とのリベンジマッチに臨んだ。
豪快なそり投げは、今や文田の十八番として、だれもが知っている。そのため、「海外でも研究されていて、誰も胸を合わせてくれない。僕のレスリングは対策されやすい形」。太田も前傾姿勢で組み合ってきて、そり投げを警戒しているように見えた。
オリンピック銀メダリストを破って勝利の雄たけび
準決勝、決勝と苦しい時に出たテクニカルポイントは、崩しを有効に使って自分の技を出しやすい形に持っていった時に奪ったもの。「自分の技がかかる形に持って行けた」ことが勝因となった。
初めての世界選手権出場を決めたが、これまでターゲット選手として“世界選手権”には何度も訪れている。「先輩たちを見ていて、自分ならこうやろうとイメージトレーニングだけは人一倍やっています」と自信をのぞかせた。目標は「忍先輩がオリンピックで2番だったので、自分も決勝には行きたいです」。
優勝インタビューでは、その様子を見守っていた父であり恩師である韮崎工高(山梨)の文田敏郎監督を司会者が呼び寄せる粋なはからい。急にマイクを向けられた敏郎さんは、「よくやった」と息子を褒めると、息子から優勝した金メダルをかけてもらうプレゼント。くしくも試合の日が父の日だったこともあり「最高の父の日になった」と大喜びだった。