※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫) 網野町少年教室からアベック優勝した伊藤海と三浦哲史
■初めて女子に負けたことを糧にしてチャンピオンに返り咲いた
女子の伊藤は決勝で藤波朱理(三重・西朝明2年)に7-2で圧勝。下馬評通りに優勝を決め、2年ぶり2度目の頂点だった。昨年は決勝で櫻井つぐみ(高知・野市)に敗れて準優勝。3連覇も狙えた逸材の伊藤は「今回優勝できてうれしい、という気持ちがある一方で、去年勝っていれば、(特別な)賞をもらえたのかな」と、3連覇をして最優秀選手賞を取れなかった悔しさを吐露した。
小学校時代は、女子が相手じゃ物足りないと言わんばかりに男子の部にエントリーし、」数々の大会で優勝してきた。そんな伊藤が初めて女子に負けたのが昨年の大会だった。「とても落ち込みました」-。
決勝で闘う伊藤海
キッズエリートにありがちなのは、一度の敗北で心が折れてしまい、競技を辞めてしまう場合もあること。吉岡コーチは「オリンピックに行くレベルになったら、国内外で負けることもある。それを乗り越えてまた強くなればいい。そういう選手になってもらいたい」と、将来トップ選手になる器がある伊藤に期待を込めて話した。
伊藤は昨年、負けたことを友達に報告すると、意外な反応が返ってききて驚いた。「でも、2番なんでしょう? いい成績じゃないの」―。負けのショックは和らぎ、これを今後にどうつなげるかという点に伊藤のスイッチは切り替わった。
3位入賞が5選手生まれた今年の網野町少年教室
大阪にもクラブはたくさんあるが、「同じ体重の選手が網野にはたくさんいて、とても練習になるから」と、移動時間を惜しまずに通う。平日の練習不足の反動か、週末の網野での集中力は目を見張るものがあるそうだ。
伊藤を刺激するのは早大に通う、兄・伊藤駿の存在だ。昨年12月の全日本選手権では70kg級で2位の結果を残した。「お兄ちゃんがすごくうらやましい。だから私も中学校の残りの試合を全部優勝して高校に進みたいです」―。
■“泣き虫”だった選手が全国一へ、誰もが驚いた三浦の優勝
下馬評通りに優勝した伊藤と一味違う優勝を飾ったのは男子85kg級の三浦だった。本人も指導者たちも一同に「優勝したことが信じられない」と言葉をそろえた。小学校時代は、全国大会のマットに上がるも、試合が嫌で泣き出して対戦を拒否したこともある。
決勝で闘う三浦哲史
網野町少年教室出身と言えば、オリンピック2大会連続出場の高谷惣亮(ALSOK)らがいる。高谷もこの大会を制して今に至る。「あの高谷先輩と同じ全中チャンピオンだね」と問うと、「驚きしかない」と信じられない様子だったが、今後の目標を聞くと、目つきが変わった。「秋の全国選抜もしっかり優勝したい。来年は高校生なりますし、そこでもしっかりとメダルを獲れる選手になりたいです」―。
泣き虫で弱かった自分に決別。全中で覚醒した三浦だった。