※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 試合を見つめるコーチングスタッフ。左から小幡邦彦コーチ、高田裕司監督、下田正二郎部長
「もし負けるとしたら早大か日体大」と小幡邦彦コーチが最も警戒してきた大学のひとつが最終戦の相手となり、メンバーの緊張もピークになっていた。だが、先陣をきった57kg級の小栁和也が終始先手を打って日体大軽量級の主力である長谷川敏裕を撃破したところが勝負の分かれ目だった。
4年の小栁が素晴らしいスタートを切ったことで、主力メンバーが本来の力を発揮。70kg級の乙黒圭祐、74kg級の木下貴輪、86kg級の藤波勇飛が勝って4勝を挙げた。小幡コーチは「小栁が勝ったところで、ほぼ勝ちを確信した」と振り返り、高田裕司監督も「殊勲は小栁だ。5連覇と簡単に言うけど、大変なことだ。よくやった」と選手をたたえた。 【上】一本背負いで4点! スタートダッシュを鮮やかに決めた小栁。【下】山梨学院大を誇らしげにアピール
昨年までの4年間、最重量級を守ってくれたボルチン・オレッグ(現ブシロード)が卒業。入れ替わりで同じカザフスタンからの留学生としてアルメンタイ・バグダウレットを迎えた。新たな守護神を得て、5連覇に向けて盤石な布陣がそろい、死角はないと思われていた。
だが、大会前日の練習で、アルメンタイが肩を亜脱臼するアクシデントが起こった。小幡邦彦コーチは「本当に予想外のこと。痛み止めを使ってアルメンタイの様子を見たが、それでも痛みが出るようだった。将来がある若い選手のため、対戦相手には申し訳なかったが、(チームの)勝負が決まっていたら棄権させることを高田監督と話し合って決めた」と苦肉の決断を下した。
けれども、レギュラーが一枚欠けても勝てる戦力を持っているのがここ数年間の山梨学院大だ。昨年は中量級のエース、藤波勇飛がオリンピック最終予選からの連戦になり、本来の65kg級で使えなかったが、問題はなかった。
レスリングには、けがや体重の問題はつきもの。小幡コーチは「ひまさえあれば、リーグ戦のオーダーについて常に考えている。最悪の状況も考えて、あらゆる状況をシュミレーションしてリーグ戦に臨んでいる」と、不測の事態でも落ち着いてオーダーを準備できる采配能力が吉と出た。
■昨年の“悔しい4連覇”の雪辱を晴らした木下主将
木下貴輪主将の渾身のタックルが決まる
「僕がチームの負けを決定づける黒星を喫してしまった。1敗しての優勝は素直に喜べませんでした。1年生の時はひたすら緊張して終わり、2年目は普通に試合して優勝。3年目で初めてチームとしての負けを経験して、プライドが傷つきました。(負けることは)こんなに悔しんだ、と思い知った。今年はそんな思いをしたくなかった」。
悔しさをばねに、今年は優勝を決定づける白星を挙げた木下。「去年の時の悔しさがあるからこそ、今回の優勝は4年間で一番うれしいです」と感無量の様子だった。
殊勲の白星を挙げた小柳も1年間、十字架を背負っていた一人だ。「トップバッター次第でチームの流れは変わる。昨年、僕が負けてチームの流れを作れなかった。今年は役目を果たしたと思っている」。リーグ戦は4年生が強いチームが勝つというセオリーは今年も例にもれずだった。
藤波勇飛は86kg級でも圧倒的な強さを見せ、4勝目を挙げてチームの勝利を決めた
リーグ戦での連覇を重ねた山梨学院大には、「日本一強い大学」というイメージも定着してきた。先日のアジア選手権(インド)で優勝した高橋侑希(ALSOK)など、卒業しても山梨学院大の道場で練習を続ける先輩たちも増えた。「リーグ戦で連覇しているという実績に加え、軽量級には高橋、重量級にはオレッグという世界を目指すOBたちと練習ができるという環境が、スカウトにもプラスになっている」(小幡コーチ)。
国際レベルの留学生を擁しているため、“留学生頼みのチーム”という見方をされることがある。小幡コーチは「強い留学生やタイトル持ちの選手をスカウトしたりしていますが、実績がない選手も育っています。チームの底上げも成功し、今回も勝負は日本人選手だけで決めることができました」と、優勝の原動力にチーム力を挙げた。
リーグ戦は今シーズンの序幕にすぎない。6月には明治杯全日本選抜選手権が控える。山梨学院大の強みは、チーム力もあれば個人の能力も高い選手がたくさんいること。今年は、果たして何人の選手が世界選手権代表に選ばれるだろうか-。