※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
2015年4月から全国高体連レスリング専門部の部長を務めた福田耕治氏が、3月で大阪・同志社香里高を定年退職し、専門部の部長からも退いた。オリンピックにも参加した国際審判員であり、レスリング経験のある初の部長としての活躍が期待された“マルチ部長”に、2年間を振り返ってもらった。
(聞き手:樋口郁夫=全国高校選抜大会中にインタビュー。専門部の新人事は、発表後に掲載します)
――高校レスリングに約40年携わってきて、今のお気持ちは?
福田 やはり寂しさはあります。毎年、この時期にこの体育館に来て、この光景を見てきた。来年から来ることはないのかな、と思うと感慨深いものがある。
――専門部長としての2年間を振り返ってください。
福田 一番の懸案事項は女子を高体連の正式種目として認めてもらうことだった。今年のインターハイから正式種目となることにとなり、その目標が達成された。最低限の役割は果たせたかな、と思っている。 全国高校選抜大会・閉会式であいさつする福田耕治・専門部部長(当時)
福田 競技レベルは問題なく、部員数や出場選手数の問題。全国でどのくらいの選手がやっているかが重要だった。正式種目として認められたからといって、安心していいものではない。男子を含め、競技人口については常に危機感を持ち、普及の努力をしていく必要がある。
――男子でも、階級によっては県予選出場が1選手で、予選なしでインターハイに出てくる場合もある。女子は、もっとそういうケースがあるようだ。
福田 選手数を増やすことは今後の課題でもある。次の専門部長に引き継いでもらい、県予選がきちんとできるように選手数を増やしてくれることを期待したい。今年は階級の問題、当日計量の問題など課題が山積みだ。
――基本は世界レスリング連盟(UWW)のルールですね。
福田 高体連はUWW(旧FILA)のルールを実施することで強化に貢献してきた。UWWがルールを変えれば従うのが当然であり、それが強化につながると思う、強化がうまくいけば競技人口も増える、というコンセプトでやってきた。
――この数年間の高校スポーツ界の課題に、体罰撲滅があったと思う。レスリング界はいかがだったでしょうか。
福田 正直言ってありました。格闘技の中では少ない方だと思うが、いくつか報告されています。指導者は、生徒に苦痛を与えたら体罰になることを常に意識してほしい。手を出してはならない。
――格闘技の場合は、練習としごき・体罰の線引きが難しい面がある。
福田 生徒との信頼関係だ。練習でしごかれても、選手が「自分のためを思ってやっている」と思えば、体罰にはならない。最近はSNSの発達により、当事者でない人間が体罰としてとらえ、問題を大きくしてしまうケースがある。選手は監督やコーチを信じ、厳しいことを言われたり、やられたりしても、それを受けとめているのに、第三者がそれを見たり聞いたりして、体罰だ、暴言だと解釈し、変なふうに広がってしまう。指導者と選手との間ではありきたりの言葉でも、第三者には暴言ととらえられてしまう。指導者は委縮してしまっている。
――訴えがあったからといって、一方的に処分することはないのでしょう?
福田 一方的ということはないが、SNSで広まってしまうと、そのイメージが固定してしまう悲しさがある。試合は多くの親がビデオで撮影している時代。マットサイドでの言動には細心の注意が必要だ。「もっとしっかりしろ!」という意味で体をポンとたたき、選手はかえって気合が入ってよかった、と思ってくれても、ビデオでそのシーンが残ると体罰とみなされてしまう。
――第2ピリオドが始まる前、「さあ、行ってこい!」という気合を入れる意味で腰のあたりをたたいて送りだしたら、学校に「あれは体罰ではないか」という電話がかかってきた、という話を聞いたことがあります。
福田 信頼関係がある間での当たりまえの動作や言動でも訴えられてしまう時代だ。スポーツの指導は厳しい時代なんですよ(笑)。体罰のほか、指導者の減少、審判員の減少と課題は多い。少子化の中で選手自体が減っているが、「仕方ない」であきらめず、いかに維持していくかを考えてほしい。
――4月からは西日本学生連盟の会長に就任し、新たな挑戦が始まります。
福田 長年の懸案である東日本との格差是正に取り組みたい。レベルは上がっているが、東に追いつき、追い越せという姿勢をもっと強く持ちたい。大会運営などについてはよくやっていると思う。
――こちらの会長は2年ということはないと思う。強化にはじっくり取り組めますね。
福田 いつまでやらせてもらうかは分からないよ(笑)。関東の大学の指導者も多く入ってきてくれている。魅力ある連盟にし、有力高校生が来てくれるような組織にしていきたい。