※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫) 優勝を決め、野口勝監督に抱き着いた坂野秀尭(鹿屋中央)=撮影・増渕由気子
「本当にうれしいです。学校対抗戦で優勝できなかった悔しさをぶつけました」。決勝の相手は昨年のインターハイ3位の伊藤朱里(京都・網野)。“30秒ルール”で1点を先制され、追う展開となった。しかし「焦らず、いつも通りの試合ができた」そうで、第2ピリオド、“30秒ルール”で1点を返したあと、タックルからのチャンスでエビ固めを決め、フォール勝ちへと持ち込んだ。
準々決勝も難敵だった。一昨年のインターハイ66kg級2位にして王者・日体大柏(千葉)のエース、井筒勇人。前日までの学校対抗戦で圧勝優勝したチームの主将として、乗りに乗っていた選手。リードされる展開となり、苦しい闘いだったが、終了間際に勝負をかけて3-2と逆転。紙一重の差ながら退け、優勝へ近づいた。
「チャレンジャーの気持ちで思い切っていきました」と言う一方、昨年から多くの高校選手が持ち始めた“日体大柏”ブランドへの恐怖心は「なかったです。勝つつもりで向かっていきました」ときっぱり。昨年の全国王者・鹿屋中央選手のプライドを見せた。 野口監督と坂野秀尭
■1階級上であっても、負ければ悔しい!
それもそのはず。昨年はチーム事情により、本来より1階級上の84kg級に出場していたからだ。この大会とインターハイは3回戦敗退。国体はフリースタイルでの枠が埋まっていたので不出場。団体日本一に輝くチームの84kg級レギュラーを務めたとはいえ(坂野は2勝2敗)、個人戦で3位入賞を果たせるだけの実力はなかった。
「体重が足りなかった」(坂野)という勝てない“正当な”理由があっても、負ければ悔しかった。「インターハイが終わったあと、徹底的に体をつくりました」と、昨年の夏から体力アップに主眼を置いて練習してきた。
今年に向けては予選から本来の74kg級で出ることになり、やっと実力を開花させた。1階級上で闘ったことは、「力のある選手との闘いに慣れました。無駄ではありませんでした」と振り返る。成績は残せなかったが、その中でしっかりした体力を養い、それが生きたのだろう。
応援席から熱い声援を送っていた姉・結衣選手
気をゆるめるつもりはない。今年の目標を高校三冠王におき、「今回は、たまたま勝った試合もあった。もっと練習してインターハイ、国体はもっとしっかり勝って優勝したい」と気を引き締める。
その前の4月末のJOC杯は、ジュニア74kg級に出場して大学生に挑む。「きついとは思いますが、全力で闘って上位に食い込みたい」。三冠王挑戦とともに、大学生に挑む闘いも始まる。