※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 学校対抗戦に続き、宿敵に逆転勝ちして喜ぶ山田修太郎(秋田・秋田商)
全国高校選抜大会の個人戦84kg級の決勝は、昨年の高校三冠王の石黒隼士(埼玉・花咲徳栄)と同級の2番手だった山田修太郎(秋田・秋田商)の雌雄を決する試合となり、山田が終盤に追いついてラストポイントで勝利を収めた。山田にとって初めての日本一のタイトルだった。
試合は石黒が一時4-0とリードしたが、終盤に山田が追い上げ、残り10秒を切ったところからタックルを決めてバックポイントをゲット。2点が追加され4-4のラストポイントで山田が勝利した。
見事だったのは山田の時間の使い方だった。「自分はあまり技がない。体力も攻撃力も石黒君が上なので、スタミナを削ることを考えていた」と、後半勝負をにらんで、前半は攻撃よりも相手のコンディションを崩すことに徹した。
後半になると、肩を動かしながら苦しそうに呼吸をする石黒の姿があった。作戦通りに石黒はばててくれたが、山田はまだ攻めない。「2点差で残り1分ありましたが、むやみに攻めず、残り20秒あたりでスパートをかけようと思いました」と、相手の動きをうまくさばいて2点差のまま終盤につないだ。
横山秀和監督は「(すぐに攻めて)逆転したら、今度は相手が攻めてきます。2点差なのであと1回アタックすればいい状況だった。山田は攻撃を我慢してラスト攻めることができました」と、試合巧者だった教え子を評価した。
その山田を指導したのは横山監督自身。山田は「時間の使い方やマットの使い方まで、なんでも教えてもらいました」と恩師の教えを忠実に守ってライバルを撃破した。
■前日の学校対抗戦で使ってしまった“秘密兵器”だが…
実はこの戦いには伏線があった。前日の学校対抗戦の準決勝でも両者は対戦していて、しかも、秋田商がチームスコア3-2として決勝進出に王手をかけた状況。120kg級の戦力からして、山田が勝てば秋田商が、石黒が勝てば花咲徳栄の勝利がほぼ確実になるという勝負の分かれ目となる一戦だった。
横山秀和監督と山田
学校対抗戦は同校10年ぶりの決勝進出を果たし、個人戦でも優勝となった山田。最高の成績に、「石黒君に勝つために、毎日毎日練習してきました。去年は(この大会とインターハイで)2度負けているので、一気に2回勝ててうれしいです」と笑顔がはじけた。
すべてがうまくいったように見える今回の全国選抜大会。実は山田にとって予定外だったことが二つあった。ひとつは「団体戦で個人戦のために準備してきた技を使ってしまったこと」。もう一つは、学校対抗戦の決勝戦で1年生相手に黒星を喫したこと。
横山監督は「決勝戦の負けは、いい意味で試練になったと思う。技に関しては『昨日、あの技を見せたことで、相手も警戒すると思う』」と助言した。山田も「団体戦で小内刈りを見せてしまった時は、出してしまった…、と思いましたが、それは仕方がないので」と気持ちを切り替え、今日はそれを逆手に取って、投げ技をちらつかせながら、最後は得意なタックルで石黒を仕留めた。
ライバルに勝つために技も気持ちも磨き上げた山田が今回は勝った。負けた石黒もまた強くなってくるだろう。今シーズン、石黒と山田の繰り広げる好勝負から目が離せなくなりそうだ。