※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
白井勝太(日大)
■ラスト1秒までリードしていた全日本選手権決勝
昨年10月に耳の病気で戦列を離れ、国体と全日本大学選手権を棒に振った。全日本選手権へは約1週間前に本格復帰しての参戦だった。「出場は無理と思っていましたが、予想以上に動けたので出ることにしました。正直なところ、決勝まで行けるとは思っていませんでした」。
その状態で決勝に進み、学生二冠王者の松坂誠應(日体大)に終了間際まで2-1でリード。最後のタックルをラスト1秒、レッグホールドで返されて逆転されてしまった(そのあとのチャレンジ失敗で1点を失い2-4)。松坂に「負け試合のような試合をしてしまった」と言わしめ、地力を見せた。
昨年12月の全日本選手権決勝。2-1でリードし、ラスト30秒、果敢にタックルへいったが、結果として逆転負けにつながった=撮影・矢吹建夫
白井は「1位以外は負けだと思っています。2番手として海外遠征に行っても…。(以前と)何も変わってないです」と、追う立場であることを強調。「これでいいと思っています。だれでもそうだと思いますが、目標とする選手が身近にいないと強くなれません。自分の周りには、常にライバルがいて、目標となる人がいました」と話し、王者の松坂を追うことで実力を養成していく腹積もりだ。
■軽量級と重量級は根本的に違う…同年代選手の活躍に焦りはなし
同年代では、樋口黎(日体大)がリオデジャネイロ・オリンピックで銀メダルを取り、文田健一郎(日体大)がゴールデンGP決勝大会で優勝するなど、早くも世界トップレベルに到達している。だが、焦りみたいな気持ちはなく、ライバル意識を燃やすふうでもない。
2014年の全日本大学選手権、1年生王者に輝いた=撮影・矢吹建夫
全日本王者に肉薄したことや、同期の活躍に対して極めてクールに受け答えをしていたが、出身の「JOCエリートアカデミー」の話になると、声が強まった。「国のお金で育ててもらいました。結果を出さなければならないと思います」ときっぱり。
最近の同アカデミーの現役・卒業生選手の活躍は目覚ましく、男子は高校レスリング界を席巻し、カデットの国際大会で台頭。女子では世界チャンピオンが誕生し、今夏の世界選手権(フランス)でも世界女王が誕生しそうな勢いを見せている。第1期生として、結果を出さねばならないという姿勢がありあり。
全日本合宿で練習する白井
一方、それが余計なプレッシャーにならないよう過度に考えることはしない。「根本は、好きでレスリングをやっているんです。自分のために頑張ればいいと思っています」と話し、国によって育てられたことを大上段に持ってくるつもりはない。それでも、後輩の活躍がモチベーションのひとつになっていることは間違いないようで、この追い風によって実力アップが見込まれよう。日大の主将に推されたことも、今年のエネルギーのひとつとなるはずだ。
世界の強さは、今回の米国遠征で痛感した。「デーブ・シュルツ国際大会」に出場する前に約1週間、米国チームに混ざっての合宿練習があったが、トップ選手はパリ・グランプリ出場でいなかったにもかかわらず、かなりの実力差を感じたという。「You Tubeでも外国選手の試合を見ていますが、世界のトップはどんなに強いのだろうか、と思います」-。
全日本王者に肉薄したものの、世界はまだ遠く、やっとスタートラインに立ったところ。焦ることなく、一歩一歩階段を上っていく-。