※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
奥井眞生(国士舘大)
高校卒業後、2人より先に脚光を浴びたのが男子フリースタイル74kg級の奥井眞生(国士舘大)だ。2014年8月、1年生にして全日本学生選手権の両スタイルを制覇。これは1982年の小林孝至(のちの1988年ソウル・オリンピックで優勝)以来、32年ぶりの快挙だった。
その後つまずきもあり、リオデジャネイロ・オリンピックには間に合わなかったが、昨年5月の全日本選抜選手権で優勝。2020年東京オリンピックへ向けて着実に実力をアップさせている。
■学生だけでも強豪ぞろいの階級、それがゆえに「毎日が充実」
今年は1月の「ヤリギン国際大会」(ロシア)に抜てきされ、レスリング王国の強さに接した。結果は出せなかったが、ロシア選手の脚を取られてからの守り方、脚を取ってからの処理、カウンターに対する処理など学ぶことは多かった。「ロシアのレスリングを経験したことで、今が一番伸びる時期だと思っている」と振り返る。
2014年、1年生で両スタイルの学生王者に輝いた奥井=撮影・矢吹建夫
勲章が重荷になったことは否定しない。「感じないようにはしていた」と言うが、心のどこかに“負けが許されない立場”との思いがあり、守りのレスリングになってしまった面があるのは確かだ。そんな気持ちを消してくれたのが、新鋭・山崎弥十朗(早大)の躍進だ。
学生王者として臨んだ2015年4月のJOC杯の決勝で、当時埼玉栄高校の選手だった山崎に敗れる屈辱。大きく落ち込んだが、チャレンジャーの立場になることで重荷がなくなった。勝ち続けることが、最後の勝利をつかむ道ではない。「負ければ落ち込みますが、負けた試合の方が学ぶことが多い」と、負けをエネルギーに変えるすべを知った。
学生王者として臨んだ2015年JOC杯でスーパー高校生の山崎弥十朗に敗れる=撮影・矢吹建夫
■高谷惣亮の壁を破らない限り、オリンピックは見えてこない
その上には、オリンピック3度連続出場を目指す高谷惣亮(ALSOK)がいて、大きな目標。存在が大きすぎるのか、オリンピックは「まだ見えない。まだ遠い」と言う。昨年の全日本選抜選手権は高谷不在の中での優勝。高谷も出場する今年の全日本選抜選手権で、同世代の選手を破り、高谷を乗り越えるか、迫ったという感触を得て、初めて見えてくるのだろう。
そのために必要なことは、もつれた時の粘りなど、今回のロシア遠征で持ち帰った課題の克服。毎日の練習で取り組むほか、全日本合宿では高谷に積極的に挑み、実力差を縮めることに余念がない。「以前ほどぼこぼこにされることがなくなってきた。課題を持って挑んでいる」。
全日本合宿で高谷惣亮に挑む奥井
“1年生両スタイル学生王者”は過去の栄光。すばらしい実績だが、オリンピック出場には何の効力も発揮しない。樋口黎は、そんな実績などなくともオリンピックに出場し、メダルを手にした。オリンピックへの道は、ただひとつ、“勝負の時”に勝つこと。通過点で勝つことではない。
ロシアのレスリング技術を直に学んだ奥井が、2020年東京オリンピックを目指し、大きく飛躍する。