※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治、撮影=矢吹建夫) 全日本選抜選手権jに続き、全日本選手権初優勝を達成した須崎優衣(JOCエリートアカデミー/東京・安部学院高)
「なぜそんなことをするのか?」と水を向けると、須崎は「入江ゆきさん(自衛隊)に惨敗を喫した時の悔しさを忘れたくないから」と答えた。
高校2年生にして、この心意気。携帯の待ち受け画面は、その時の表彰式と銀メダルの写真というのだから徹底している。須崎は人一倍負けん気の強い選手だ。今年は悔しさをばねに、5月の全日本選抜選手権で入江にリベンジを果たし、無敗の快進撃を続けた。その勢いで全日本選手権ものみ込んだ。
決勝は、2回戦で入江を破って勝ち上がってきた加賀田葵夏(青山学院大)と対戦した。須崎の入り方を研究していたのか、加賀田は相手のタックルを切ってフォールを狙う場面もあったが、タックルを取り切る力は須崎の方が一枚上。須崎のそれを加賀田が一度はしのいでも、さらに崩してバックを奪うなど点数を重ね5-0で快勝した。
「決勝前は緊張もしたけど、今まで練習してきたことを絶対にやり切ってやろうと思っていました」
全日本選抜選手権で優勝した直後は涙を見せたが、今回は表彰式でも終始笑顔だった。その違いは? 「前回は、入江さんにはスパーリングでも全然勝ったことがなかったので、『本当に勝てたんだ!』と思ったら自然と涙が出てきました。今回は笑顔でマットを降りたいと思ったんですよ」
■2017年はリオデジャネイロ金メダリストへ初挑戦か
須崎を語るうえで欠かせない指導者がいる。アカデミーの吉村祥子コーチだ。何か不安があると須崎は遠慮なく吉村に相談して解決してきた。今回も大会前日に「勝てるのかな?」と不安になったので、吉村に声をかけた。
決勝で闘う須崎
大会初日、JOCエリートアカデミーで同期の南條早映が55㎏級で初優勝を果たした。須崎はいつも一緒に練習する南條からも大きな刺激を受けたと口にする。「同級生が先に(全日本選手権で)優勝して、いいなと思いました。私も勝って、吉村コーチをはじめ指導してくださる皆さんに恩返しをしたかった」
女子48㎏級で2020年東京オリンピック代表の座を勝ち取るためには、リオデジャネイロで金メダルを獲得した登坂絵莉(東新住建)を倒さなければならない。練習では何度も手を合わせた経験を持つが、いまだ試合で当たったことはない。
「登坂選手は自分が尊敬している存在ですけど、東京オリンピックに出場して金メダルを獲得するためには倒さなければならない。もっと、もっと努力して、もっと、もっと強くなって対戦することができたら…」
力のこもった「もっと、もっと」に須崎のポテンシャルを感じた。ウエートトレーニングのおかげで、この1年で通常体重は48~49㎏から53㎏まで増え、体つきもがっしりしてきた。まだ17歳、のびしろはたくさん残されている。東京オリンピックへ向け、2017年には登坂との念願の初対決が実現するか。