※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫) オリンピック銀メダリストを破って日本の頂点についた文田健一郎(日体大)
これで、5月の全日本選抜選手権、10月の国体に続き、今年の国内ビッグタイトルはすべて制覇した。オリンピック銀メダリストを倒しての優勝に、文田は「明治杯(全日本選抜選手権)は太田選手が出ていなかった。今回は倒して優勝したので、うれしい」と話し、真の日本一に笑顔がはじけた。
■押さえられる恐怖はあるが、「僕にはこれしかありません」-
パッシブによるパーテールポジションが廃止されたことで、決勝でもノー・テクニカルポイントで決着した試合が多い中、新ルールでの面白味を存分に見せてくれたのが文田と太田の決勝だった。
スタンドで胸を合わせてからの豪快なそり投げは4点というビッグポイントとなる技。文田の一番の武器だ。自らマットに背中を向ける技のため、ひとつ間違えると、乗られて失点するどころか、押さえ込まれてフォール負けするリスクもある。
事実、3点をリードして追加点を取りにそり投げを打ったところを太田に押さえられ、あわやフォール負けの態勢になって逆転を許してしまった。第2ピリオドも失点し、4-7と3点差に広がった。
大学内での練習試合でそり投げを押さえ込まれてフォール負けしたことがあり、記憶がよみがえったという文田だったが、「(押さえられる)恐怖はあるけど、僕にはこれしかありません。これが一番の得点源なので」と、手の内を知り尽くしている同門の太田に対してもそり投げを止めなかった。
勝利をアピールする文田
■「今回勝たないと、ずっと2番手になってしまうのでは…」
文田は「金4、銀3」と史上最高の成績だったリオデジャネイロ・オリンピックを現地で観戦している。「忍先輩は、高校生の時から憧れで、メダルを獲るまで応援していたのですが、表彰式あたりから悔しくなってきました。自分が忍先輩に勝っていたら、あそこまで行けたんだ!」。太田からは銀メダルを触らせてもらわなかった。触るメダルは自分が獲ったメダルと決めている。
憧れの先輩の背中を高校生の時から追い続けてきたが、「今回、勝たないと、ずっと2番手になってしまうのでは…、という思いがありました」と、今大会が勝負どころだった。「今回勝てたのは大きいです。早く世界のトップに行きたい」と先輩と肩を並べる存在になったことで、日本代表の自覚も芽生えた。
太田も社会人1年目の若手選手。今回の悔しさをばねに、さらに成長することは間違いない。世界で結果を残している若手2人が世界レベルの試合を見せつけたグレコローマン59kg級。東京オリンピックの目玉階級となれるか―。