※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=保高幸子) 梅野貴裕(愛媛県協会)
地元の愛媛で高校教師をしながら現役を続けてきた選手だ。徳山大時代の2009年に西日本学生選手権優勝、2010年に全日本大学グレコローマン選手権3位などの実績。卒業後は、来年10月に地元で行われる愛媛国体で優勝したいという思いがモチベーションだった。
しかし今、梅野がつかんだのは世界選手権への挑戦というさらに大きな舞台へのキップだ。世界選手権に出ることを想像すらしていなかった高校教師が、いかにして日本代表として闘うまでになったのか。
■教え子の奮戦に力をもらって開眼! 世界挑戦のチャンスをつかんだ
梅野は、母校の八幡浜工高で土木科の教員をしながらレスリング部で高校生選手の指導をしている。一般的に、高校生を指導しながらトップを目指すのは難しいと言われる。「ぼくは大丈夫だと思っていました。でも、去年の和歌山国体(10月)で、優勝する自信があったのに3位に終わり、全日本選手権(12月)も全然だめでした(初戦敗退)。悩みました」と吐露する。
全日本合宿で練習する梅野
「本当に生徒に力をもらったという感じです。ぼくも頑張らなければ…。そう思って、指導者から選手活動にシフトし、選手として高校生と同じメニューで練習させてもらえるよう、監督である栗本先生にお願いしました」と話す。
そのほかにも自分なりに工夫し、時間が取れる時は徳山大や日体大の練習に参加させてもらった。成果はすぐに表れた。5月末に行われた全日本選抜選手権で見事優勝し、初の全日本レベルのタイトルを奪取。準決勝は前年の世界選手権代表を破り、決勝は全日本選手権で敗れた山本貴裕(日体大)に第1ピリオドのテクニカルフォール勝ちという“おまけ”つきだった。
「みんな驚いていましたね」と笑うが、地道にコツコツ努力してチャンスをつかんだ梅野に対して、校長先生はじめ職場や友人、家族は大いに祝福した。
■初めての世界選手権、「同じ人間で同じ階級なのだから、差はない!」
2009年西日本学生選手権優勝の梅野(左から2人目)。前年までで唯一の優勝経験だ
大会の開催と全日本選抜選手権の王者となった自分が代表にと祈っていたという梅野。オリンピックもあって、なかなか日本代表が決まらなかったが、夏が終わって正式に打診された時は、もう心の準備はできていた。「今年のぼくは調子がいい。よしきた! と思いました」-。
遅咲きである梅野には、国際大会の経験はない。高校時代の日韓交流大会が最初で最後の外国選手との経験だ。そんなわけだから、世界選手権と言われても、「想像がつかない」と言う。だが怖くはない。「栗本先生に『同じ人間で同じ階級なのだから、差はない』と言われ、その言葉通りだと思っています。しっかり気持ちをつくって、自分の試合運びができるようにしたいです」と、自分の姿勢を貫くつもりだ。
全日本選抜選手権で爆発したがぶり返し=撮影・矢吹建夫
世界選手権では「ポイントを取られないレスリングをし、粘り強く待ってチャンスをものにしたい。メダルをとりたい」と、堅実なレスリングをするつもり。一方、自分の強みであるパワーをいかし、「できれば、がぶり返しを決めたい」という野望も持つ。
応援してくれる恩師や職場への恩返し、そして、チャンスとモチベーションをくれた生徒たちのために全力を尽くす。
梅野貴裕(うめの・たかひろ=愛媛県協会)
1989年1月11日生まれ、27歳。愛媛県出身。愛媛・八幡浜工高~徳山大卒。高校時代は国体3位が最高。徳山大時代の2009年に西日本学生選手権で優勝し、2010年全日本大学グレコローマン選手権3位。2015年に国体3位となり、2016年に全日本選抜選手権初優勝。その後の全日本社会人選手権も制した。10月の国体はリオデジャネイロ・オリンピック66kg級代表に敗れて2位。172cm。 |