※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 負傷欠場の中村倫也(右)の代役を立派に果たした57kg級の井出光星(専大)
決勝はスピードあるタックルで藤田からテークダウンを取ると、連続アンクルホールドを決めて10-0の完勝。わずか1分17秒の速さで大学王者の称号を手にいれた。
長野・小諸ジュニア出身で、長野の強豪高の上田西から専大に進学して2年目。「年少からレスリングをやっているけれど、初めての全国タイトル。まだ優勝した実感が沸かない」と、成し遂げたことの大きさに驚きを隠せない様子だった。
専大の57kg級には、5月の全日本選抜選手権王者の中村倫也がいる。中村は5月の東日本学生リーグ戦でリオデジャネイロ・オリンピック銀メダルに輝くことになる樋口黎(日体大)を破った専大軽量級のエース。出場したら優勝候補の一番手だったが、けがのため欠場となり、2番手の井出に白羽の矢が立った。
「倫也先輩の分までという気持ちは強くありました。部屋も同じで、技術もたくさん教えてくれる」と、専大の代表としてマットにあがった井出は、中村が乗り移ったように快進撃で勝ち進んだ。
決勝でさく裂したアンクルホールド
■弱点は克服してスピードを生かしたレスリングで栄光
キッズから大学生になるまで、全国大会無冠でありながらレスリングを続ける選手は多くない。勝てなくて辞めたり、勝って満足して辞めたり。「勝てなかったけど、レスリングを嫌になったことはなかった。レスリングやめたら自分は何もないし(笑)」と、地道に続けたことで、憧れだった専大に合格。
専大は練習道場が新しくなり、ここ数年、コーチ陣に全日本トップ選手を招へいしたりと、指導や環境面に力を入れている。「専大に入って強くなれたことは間違いないです。どの大学よりも充実していて、それが今回の優勝につながった」。
団体3位に入賞の専大。最終日は馳浩監督も駆けつけた
「専大に入学してやってきて、結果として残せるものができた」と話したが、今後の目標について問われると、すぐに顔を引き締めた。「今回、逆ブロックに強い選手が固まった。今回の優勝はくじ運もあったと思うので、実力はまだまだ。新人選手権(12月5~6日、東京・駒沢体育館)できっちり優勝して、初めての全日本選手権に臨みたい」。
中村は全日本選手権も欠場する予定。“中村先輩”の代わりに送り込まれた専大のニューフェースが、全日本のマットで鮮烈デビューを飾れるか―。