※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 新人選手権の優勝はあるが、学生タイトルは初だった樋口黎(日体大)
オリンピック後、初の試合となった樋口は「緊張してしまいましたし、いつもは自分からどんどん攻めていけるのに、オリンピックでメダルを獲ったことで、確実に勝たないといけないプレッシャーがすごかった」と初戦や決勝で失点。久々の実戦に冷や汗をかいたようだ。意外にも樋口にとって学生タイトル初戴冠。「(オリンピック)銀メダルより、やっぱり金メダルがいい」と、うれしそうにメダルを見つめた。
オリンピックのあと、約3週間は休養と帰省でマットから離れたが、9月上旬からは練習を開始。しかし、表彰などの出席もあり、練習量はオリンピック前より6~7割程度に落ちた。気持ちも「オリンピック前は自分の人生をかけて取り組んでいたけれども、切り替えができていなくて、甘くなってしまった」と追い込んだ練習ができなかった。
樋口は、“フィジカル、メンタル問題なし。残るは体重だけ”と言われるほど、減量苦がたびたび話題になっていた。今回、61kg級に出場した経緯は「オリンピック後は階級区分の変更がある可能性がある。57kg級だと減量の繰り返しで自分のレベルが上がらない。実力を伸ばすために61kg級にした」と、まずは体作りを見据えて階級をあげてきた。
0-4とされた決勝だが、焦ることなく闘って逆転勝ち
■12月の全日本選手権は61kg級出場予定だが…
しかし、オリンピック銀メダルの実力は本物。「フィジカルは日本一弱いのですが、メンタルは日本一強いと思っている。ポイントを獲られても、ぶれないメンタルが僕にはあります」と、第2ピリオドにじわじわと成國を追い詰め、4点技でテークダウンを奪うと、得意のアンクルではなく、連続ローリングで追加点。パワーでも成長した一面を見せ、あっという間に10-4と逆転した。
61kg級で大学チャンピオンになり、12月の全日本選手権は57kg級と61kg級の2階級で出場資格を得ることになったが、全日本選手権は61kg級に出場する予定だ。けれども、「来春は分からない。体の調子を見て、57kg級で世界選手権を狙うかもしれない」とも話した。
例年、全日本選手権と全日本選抜選手権を両方制した選手に世界選手権の日本代表権が与えられている。別階級に出場してしまうと、全日本選手権で優勝したアドバンテージがなくなる可能性がある。「僕にとっては自分の体をつくりあげることが大切。スタミナはある方なので、明治杯(全日本選抜選手権)にアドバンテージがなくても、優勝してプレーオフも勝てばいい。そこまで含めて決勝だと思えばいい」と、持ち前のポジティブな思考を展開した。
今大会は失点もして、「内容は満足できなかった。反省が残る」と口にしたが、いよいよ、来月は2連覇がかかる全日本選手権に“凱旋出場”する。今度こそ樋口ワールド全開で圧倒的な強さを見せられるか注目だ。