※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
■9月26日には強化の新体制を決め、東京オリンピックを目指す
来年夏にはコーチングスタッフに加入か、ロンドン金メダリストの米満達弘(自衛隊)
――2020年へ向けての強化についてお聞きしたい。2012年のロンドン大会のあと、コーチなどは年間契約だからとの理由で、すぐ新体制でのスタートとはならず、2013年3月になってやっと強化の新体制が決まった(高田裕司・強化本部長兼男子フリースタイル強化委員長、西口茂樹・男子グレコローマン強化委員長、栄和人・女子強化委員長)。和田貴広君が男子フリースタイルの強化委員長に就任したのが、その年の12月。リオデジャネイロ・オリンピックまでの体制は、実質2年7ヶ月だった。このブランクや体制づくりの遅れに問題はなかったでしょうか?
福田 協会のきまりは3月が役員の改選。強化委員会もそれに従ったが、これはおかしかった。その反省をもとに、オリンピックが終わったら強化だけはすぐに新体制をつくることとし、現在、人選を進めて体制づくりをしている。今月26日の協会理事会で承認してもらい、東京オリンピックへ向けての強化体制をスタートさせたい。そうでなければ、間に合わない。
――前回は金メダリストの米満達弘選手(フリースタイル66kg級)を初め、湯元進一選手(フリースタイル55kg級)、松本隆太郎(グレコローマン60kg級)のメダリストが休養したり、国内で勝てず、2013年の全日本チームにはオリンピックのメダリストがいなかった。今回は樋口黎、太田忍の両選手が休養することなく加わるでしょうから、これは大きいと思います。
福田 それは大きい。若くしてオリンピックでメダルを取ったということ自体、あとに続く選手の目標になる。全日本合宿で彼らが練習を率先してやってくれることで、他の選手は、オリンピックで勝つにはどれだけやる必要があるのかを体で感じ取ることができる。今、アメリカにコーチ留学している米満君は、いつ帰ってくる?
――2年間ですから、2017年夏の予定です。
福田 新体制の最初からいないのは歯がゆいが、帰国してからは後進の指導に全力を尽くしてほしいと思う。
■企業や広告代理店から相手にされるの競技団体であるためには?
――2018年には日本(高崎市予定)で女子のワールドカップが予定されていますが、男子の国際大会は開催できないものでしょうか。
福田 やりたい気持ちは十分にある。しかし、国からの予算は強化、しかも遠征や合宿の費用しか出ない。国からのスポーツ予算には、大会開催のための予算がない。辛うじて日本スポーツ振興財団から大会費用の5%か10%が出るだけ。1大会でいくらかかると思うか。これでは国際大会は開けない。日本のスポーツ行政は遅れている。
――協会の人間は、だれもが「福田会長がいなくなったら、だれが金集めをするんだろう?」と口にします。
福田 オレが死んだあとのことまでは知らんよ(笑)
2014年3月に東京で行われた女子ワールドカップ。国際大会の開催は経済的な困難が伴う
――「死んだあと」ではなく、「会長を勇退されたあと」です。だれもが口にするけれど、だれ一人として答えが出てこない。だれかが、やらねばならない。そのためには、企業から相手にされる競技団体であることが必要。しかし、このIT(インフォメーション・テクノロジー=コンピューターを使った情報伝達)の時代、厳しい言い方をさせてもらえば、レスリング協会はアナログ競技団体だ。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)は若者の常識となっているアイテムで、これを無視することは時代に乗り遅れることを意味する。そのことが理解されているとは言い難い。それでは企業から相手にされない。企業や広告代理店から相手にされる競技団体に変わらなければ、福田会長がいなくなったあと、どこからも相手にされない。
福田 協会の上層部がアナログ人間ばかりなんですよ。考え方を先進的にしないとならないことは確かだ。金を集める必要性は、だれもが知っているが、実際に動く人間は少ないので、実感として受け止められないのだと思う。
■急速に進むIT技術、いち早くラインによる情報網を取り入れた女子強化委員会
――競技団体が運営するフェイスブックの「いいね」の数など、SNSの導入の度合いはIOC(国際オリンピック委員会)の各競技団体の評価項目になっている。4年前のFILA(国際レスリング連盟=現UWW)はこれが最低レベル、というより、データがそろえてなく、こうした広報への無関心がオリンピックからの除外候補となった一因と言われる。ホームページも、それだけでは時代遅れ。SNSによって拡散し、新規の顧客・ファンを開拓するのが現在のやり方だ。
福田 私自身がアナログ人間で、そういう方面に詳しくないからなあ…。
《クリック=ロンドン大会報告の参考データ》 2013年のセーブ・オリンピック・レスリングの活動中、フェイスブックで「スタンスを取れ」などの大々的なキャンペーンを実施するなどし、現在のUWWフェイスブックの「いいね」の数は「約37万5000」にまで伸びた。国際柔道連盟は「約69万」まで伸びており、普及・広報面では柔道に遅れている。 |
フォロワー(いいね)の増加が必要な世界レスリング連盟のフェイスブック
――こうした質問をしている私も、実は、よく分からないのです。取材して記事を書くことはプロであっても、コンピューターのことは素人同然。若い人間から教えてもらっています。昭和30年代生まれではついていけない。ただ、通勤電車内で8割くらいの人がスマホを見つめているという時代には、それに応じた広報宣伝活動をしていく必要性は理解している。剣道といえば、オリンピック入りを望まず、商業主義を排除している競技団体。IT時代に縁遠いイメージがあるが、そこでも全日本選手権はツイッターで結果のリアルタイム速報をやっている。そんな時代だ。
福田 ツイッターやフェイスブックには危険もあると言われている。それとて、よく分からないから、何がどうだ、と言えないのが現状だ。
――IT技術の進歩は急速に進みます。メールの普及によってFAXがなくなるのは時間の問題と言われているが、そのメールも、ラインができたことで過去のものになりつつある。ラインは情報伝達に便利だ。栄和人強化本部長は、ラインができた直後、私が「ラインって、何?」と疑問に思った段階で、すでに女子強化委員会の連絡網として導入していた。「コーチ間で情報をしっかり共有するためだ」と言っていた。斬新なものを試し、いいと思ったら取り入れる、という柔軟な姿勢が、指導者としての成功につながっているのだと思う。発展のためには、こうした姿勢が必要ではないか。
福田 若く、専門知識のある人を協会に入れないとならない。我々では分からない。今後の検討課題だ。
(続く=聞き手・樋口郁夫)