※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
日の丸を掲げてウイニングランの登坂絵莉(東新住建)
対戦カードに加え、試合内容もまるで1年前の世界選手権(ラスベガス)決勝の再放送を見ているようだった。第1ピリオド早々に失点し、その後も攻めあぐねて30秒のアクティブタイムに得点できずに1失点。0-2と点差は広まった。「タックル1本で逆転できる点差」だったが、この日のスタドニクは気合が違っていた。
初出場の2008年北京大会は銅メダル。2度目のオリンピックとなった前回のロンドン大会では、日本の小原日登美に逆転負けで銀メダル。3度目の正直で今大会は、最低でも最高でも金メダルを掲げていたことだろう。登坂は「1個、1個(の動き)が強い。頭突きも来る。想定内だったし、負けてたまるかと思っていたんですけど、若干ひるむ部分もあった」と、スタドニクの気迫に押され気味だった。
終了間際、執念のテークダウン
■パニックとなった登坂に、栄和人強化本部長が的確なアドバイス
そんな登坂を助けたのが、セコンドの栄和人強化本部長の存在だ。ハーフタイム時に的確なアドバイス。「パニックだったのが落ち着いた」と、気持ちをリセットして第2ピリオドへ。
けれども、スタドニクの攻防は完ぺきで、突破口をつかめずに残り30秒。「本当に相手が強くて、『あ、やばい』と、このまま負けちゃうのかな、と思った」と、”負け”の2文字が頭をよぎった。
登坂は至学館大の中でも特に練習の虫で知られている。しかも「練習ではなぜか弱い」(栄強化委員長)。悔し涙を流しながら練習する日もあり、それをばねに、また次の日練習する-。毎日の反復練習で培った勝負勘が、「最後どうやって入ったか覚えていない」と無意識に登坂の体を動かした。
優勝を決め、体中で喜びを表した登坂
姉のように慕う吉田と同じ金メダルを首から下げ、「2、3年前から『一緒に獲れたらいいね』って言ってくれた」ことが夢が現実になり、満面の笑み。すでに世界を3度優勝している登坂だが、「オリンピックは世界選手権と全然違う。世界よりオリンピック・チャンピオンを目指してやってきた」と、初めてのオリンピックを制し、次の目標がはっきりと浮かんできた。
「東京大会で連覇したいです。今回初めてオリンピックのすごさを知ったし、これが東京なら、もっとすごいと思う。そこは私が出たいと思いました」。
姉のように慕う吉田は21歳で初優勝した。登坂も現在22歳と若手選手。リオデジャネイロで金、東京で金――。登坂のオリンピック連覇へのビクトリーロードが始まった。