※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
リオデジャネイロ・オリンピックで、女子アスリートとして前例がなく、男子では3人しか達成していない個人の同一種目4連覇に挑む女子53kg級の吉田沙保里(フリー)。大記録がかかる4度目のオリンピックであっても、「いつもと同じような気持ちです」と、淡々と語る。しかし、7月24日、都内で行なわれた公開練習。「過去のオリンピックと比べて」という質問が飛ぶと、吉田は立場の違いを強調した。「今回(の代表)は6人が同じ大学で全員が後輩です。そこは心強いです。いろいろ頼ってくる部分もあるので、それにこたえてあげたいですね」と口にした。
■「来るものは来るし、逃げてもしょうがない。そのためにやっている」
2004年アテネ・オリンピックから12年、気がつけばチーム最年長になっていた。48㎏級代表の登坂絵莉(東新住建)は「何でも話せる存在。一緒にオリンピックに行けてうれしい」と全面的に信頼を寄せたコメントを残している。「あんなに偉大な人でも謙虚。私は初めて世界王者になっても全然自信を持てなかったんですけど、そんな時に吉田さんは王者なのだからどんと構えていなさいと助言してくれました」。他の後輩も同じ思いだろう。
プレッシャーがないといったら嘘になる。しかし、いまさらジタバタしても仕方ないことを吉田はよくわかっている。
「来るものは来るし、逃げてもしょうがない。そもそも、そのためにやっているわけですからね。けがや喘息(ぜんそく)などいろいろあったけど、自分がここまでなら大丈夫かなというところで、折り合いをつけてやっています」
2008年北京大会と2012年ロンドン大会の直前には、国際試合でまさかの敗北を喫してしまい、本番を不安視される向きもあった。終わってみれば、吉田は本番で最高のパフォーマンスを見せてくれた。
■父の「ポイントにつなげるためには攻めがないといけない」の指示を守り抜く
なぜそんな離れ業ができたのか? それは最初の師である父・栄勝さんの「いくら守りが強くても、ポイントにつなげるためには攻めがないといけない」という教えを忠実に守っているからだろう。リオデジャネイロでも、吉田はタックルで積極果敢に攻めるつもりだ。その信念にぶれはない。
とはいえ、7月下旬の時点で調子はいまひとつ。24日の公開練習では、2日前に右の股関節を痛め、「思い切った練習ができていない」と打ち明けた。「自分のタックルができていない状況です。さらに痛めてしまうのはイヤなので、いまはタックルをしていません。打ち込みもわざと右に入っています。突発的になったものですが、まだ日にちはあるので大丈夫だと思います」
多少のけがであれば、むしろ、それをバネとして気持ちを吹っ切ることもできる。過去、幾度となくタックル対策を練られながらも、そのつど裏の裏をかく新たなタックルを武器に世界選手権を13大会連続、オリンピックを含めると16度連続の世界一に輝くという金字塔を打ち立てた。リオデジャネイロでも、最後の決め手はタックル!