※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治) 土性沙羅(至学館大)
素顔は漫画好きで笑顔が似合う女子大生。口調もどことなくおっとりとしているが、話題がレスリングになると語気が強まる。「たぶん、リオのマットに上がるまで緊張していると思います。それでも、絶対に勝ちます」-。
■世界選手権3年連続でメダル獲得、金メダルに手が届かない理由は?
世界選手権では3年連続メダルを獲得しているが、いまだ“金”には至っていない。昨年は3回戦で周風(中国)に黒星。敗者決定戦を制して3位決定戦に臨んだ。ラスト20秒まで2013年アジア選手権優勝のナサンブルマー・オチルバト(モンゴル)に1点リードされる展開だったが、終了間際にニアフォールに持ち込んで逆転勝ちを飾った。
執念の逆転勝ちを評価する声もあるが、土性は“これが今の実力”と肩を落した。「自分には弱さがあるから、金メダルが獲れない」。 昨年の世界選手権の3位決定戦で勝ち、3年連続メダル獲得の土性
「練習でも、意識して相手に脚を触らせないようにしました」。具体的には「低く構えてみたり、ステップを踏んで左右に動いてみたり」だという。
自分の脚を相手に触らせないようにするイメージトレーニングを徹底させた効果は、試合内容に如実に現れる。昨年12月の全日本選手権では失点なしで5連覇を達成。今年2月のアジア選手権(タイ)でも、準決勝こそゾリグト・ボロルツンガラグ(モンゴル)に4点を許したが、エルミラ・シズディコワ(カザフスタン)との決勝は11-1でテクニカルフォール勝ちを収め、格の違いを見せつけた。
準決勝でそうだったように、リオデジャネイロでも失点してからの処理にきちんと対応して闘うつもりだ。「腰が浮いてしまうと持っていかれる。足をしっかり張って自分の体重の全部相手にかけることを意識しながら闘いたい」
■7月下旬、恩師・吉田栄勝さんの墓前で金メダル獲得を約束 2014年世界選手権でのナタリア・ボロビエワとの対戦。2戦2勝と相性はいい
「中国の選手は手が長いので、腕をつかまれるとやりにくい。自分がタックルに行くと分かっているので、相手も切ってくると思う。手足が長いので正面から入るのは難しい。相手の横についたり、いなしたりすることを意識して闘いたい」
その2日前に都内で行なわれた報道陣相手の「外国選手の戦力分析会」で笹山秀雄コーチ(自衛隊)は土性の金メダル獲得の可能性を示唆した。「周風にはローリングで負けたけど、対策はしっかりやっている。現在の土性は得点能力があるので、失点を減らせば優勝も狙える」
7月下旬、出発前の最後の合宿を終えた土性は三重県の実家に帰省。その足で最初のレスリングの師・吉田栄勝さんのお墓参りをして手を合わせた。「目標にしていたオリンピックに出るので、金メダルを持って帰ってきます」-。