※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子)
全員集合写真
ダウン症と自閉症のある人のレスリング交流戦、阪神酒販アスリートクラブ杯「第8回ワクワクワセダカップ」が7月9日、早大レスリング場で行われた。参加チームは、ワセダクラブ、京都八幡クラブ、大楠ジュニア、クリナップクラブの4チームで、27選手が参加した。
1996年アトランタ・オリンピック銅メダリストで、早大コーチを務める太田拓弥氏が、ダウン症や自閉症向けに11年前に立ち上げたことから始まった同イベントは、今年で8回目。開始当時、20歳前後で始めた選手たちの中には10年以上のキャリアを持ち、30歳を超えた選手もいる。
長年継続してきたことで、太田コーチは「ここ数年、確実にレベルが上がってきています。最初の頃は、マットに一人で立つことが目標だったのに、今では、ルールも理解して、当たり前のように試合ができています」と感慨深げに見守った。
確かに、試合のレベルはこれまでで一番高かった。レスリングの基本となるタックルからグラウンドに持ちこみ、ローリングで追加点。中には、がぶり返しを決める選手もいて、練習の成果を十分に披露した。
■運営面では、昨年と同じく阪神酒販が全面バックアップ
表彰式では、全員にメダルが授与されたが、選手たちのまなざしは最優秀選手賞と敢闘賞の計3つの特別なトロフィーに釘づけだった。敢闘賞は藤井洸輔選手(大楠ジュニア)と杉田祐貴選手(ワセダクラブ)、最優秀選手は、Fグループで優勝した山下泰人選手(京都八幡)が受賞した。
MVPの山下選手はトロフィーを手に入れて大満足
山下選手は2006年からレスリングを始めて、今年が11年目。現在21歳で、平日は作業所で仕事をこなし、月1~2回、京都八幡クラブの教室に通っている。クラブ以外でも「腹筋や腕立て伏せを毎日くらいの気持ちで練習しています」と鍛えてきた。山下選手は「レスリングが大好き。負けると悔しいし、トロフィーをもらえることがうれしいです」と、一番になる喜びを話した。
全体を振り返ると、去年までは、ある選手の気持ちができあがらず泣いてしまい、試合が中断するハプニングもしばしば。試合運営側は臨機応変の対応が求められていたが、今回は滞りなく試合が行われ、運営や進行もスムーズだった。予定されていた7グループのトーナメントが早めに終了したため、急きょ、練習試合を8試合も追加することもできた。
運営面では、昨年同様、阪神酒販が全面バックアップ。早大OBで同社でレスリング活動を続けている田中幸太郎と北村公平の2名が中心となって準備を進めた。昨年は飲料の提供を行っていたが、今年は、思い出に残るオリジナル記念Tシャツを全員に寄贈した。
また、賞状の名前記入は筆耕家として活動している笹川あやさんにお願いし、手書きのものを授与。試合の前後には、昨年、レスリング応援ソング「Dreamer」をリリースしたシンガーソングライターの南努氏が熱唱し、選手たちを激励した。
■わくわくレスリングの今後の課題
今年も内容盛りだくさんで大成功を収めたワクワクレスリングだが、課題もいくつか出てきた。一つはキッズ時代に始めた選手の多くが成人し、体が大きくなってきていること。わくわくのサポートメンバーでもある昨年のアジア選手権60kg級銀メダルの香山芳美(早大)は「私より体が大きくて力も強い選手もいます。練習相手は思った以上に大変です」と苦笑い。「安全面を考慮すると、もっとスタッフが必要です」とスタッフ募集を呼びかけた。
今回初めて審判を担当した早大OBの鈴木啓仁さんは「思った以上にパワフルでスピーディーな試合が多く、タックルで場外に飛び出るシーンもありました。一人で審判と安全面をサポートするのは大変だった」と振り返った。今後は複数人の審判を配置することも検討する必要がありそうだ。
太田氏も「課題は選手が固定化してしまっていることです。参加人数は横ばいが続いていて、メンバーも同じになりつつある。新規メンバーが増えるための活動も増やしていきたい」と、裾野を広げることに力を入れていく方針を示した。
【各グループ結果】=グループ分けは、年齢や体重を考慮して主催者側で組み合わせを決定
▼Aグループ [1]松川恭大(京都八幡)[2]大塚亮太郎(ワセダクラブ)[3]佐藤弘基(大楠ジュニア)
▼Bグループ [1]関将大(ワセダクラブ)[2]吉原允(ワセダクラブ)[3]田島宏樹(ワセダクラブ)
▼Cグループ [1]吉田速人(クリナップキッズ)[2]正木扶(ワセダクラブ)[3])[3]久保田歩帆(ワセダクラブ)
▼Dグループ [1]加藤大樹(大楠ジュニア)[2]杉田祐貴(ワセダクラブ)[3]吉川龍三(京都八幡)
▼Eグループ [1]名切祐介(京都八幡)[2]伊藤直大(ワセダクラブ)[3]手塚慧介(大楠ジュニア)
▼Fグループ [1]山下泰人(京都八幡)[2]安部健太(ワセダクラブ)[3]篠田創(ワセダクラブ)