2016.07.07

【全日本社会人選手権・特集】後輩の活躍に奮起! 男子グレコローマン71kg級の梅野貴裕(愛媛県協会)が5度目の挑戦で優勝

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文・撮影=増渕由気子)

 手ごわい後輩たちを倒してつかんだ初優勝! 全日本社会人選手権の男子グレコローマン71kg級は、梅野貴裕(愛媛県協会)が5度目の挑戦で初の栄冠に輝いた。梅野は5月の全日本選抜選手権の同級でも初優勝しており、その勢いでこの大会も制した。

 全日本選抜のビッグタイトルを持っている梅野だが、「社会人選手権は5回目の出場にして初めての優勝です。こちらの優勝も本当にうれしいです」と、今回も満面の笑み。徳山大を卒業し、地元の愛媛・八幡浜工高校に赴任。教べんをとりつつレスリング部の指導をし、現役を続けた結果が出たのだから、喜びもひとしおだ。

 「優勝できたのは、栗本秀樹先生(八幡浜工高監督)のおかげ。最近は高校生と同じメニューで(指導より)自分のための練習をしっかりさせてもらっています。栗本先生の母校の日体大や(自分の)母校の徳山大にも練習に行かせてもらい、力をつけることができました」と、仕事の合間を縫って豊富な練習量をこなしたことが自信につながった。

 栗本監督は別の大会運営と重なったためセコンドには就けなかったが、梅野優勝の吉報に「梅野は高校、大学と無冠ですが、努力の塊。休まずに練習しています。教師をしながら全日本(と名がつく)タイトルを2つも獲ったことは価値がありますね」と称えた。

 トーナメントは同門対決ばかりだった。準決勝は近藤達矢(専修クラブ)、決勝戦は近藤雅貴(警視庁クラブ)で、いずれも八幡浜工高出身の選手。梅野は「本当に嫌な組み合わせで、やりにくかったです。プレッシャーがありました。達矢は後輩で、雅貴は教え子ですので、絶対に負けたくありませんでした」と先輩の意地で勝ち抜いた。

■昨年、八幡浜工高OB2人は世界へ飛び出した

 グレコローマン中量級で、八幡浜工高一門の活躍は著しい。昨年は世界選手権の男子グレコローマン66kg級代表の泉武志(一宮グループ)と同71kg級代表の花山和寛(自衛隊)の2人が同時に世界へ羽ばたいた。いずれも、関東の強豪大学に進学して飛躍した結果だ。

 梅野は八幡浜工高から徳山大に進み、卒業後は母校に赴任したため、一度も関東の環境でレスリングはしていない。ロンドンオリンピック代表の藤村義(自衛隊)も徳山大卒だが、自衛隊で力を伸ばした選手。完全に西日本で育って全日本レベルのチャンピオンになった、男子フリースタイル61kg級の有元伸悟(近大職)とともに珍しいケースだ。

 梅野は後輩の活躍に眼を細めて喜ぶどころか、「くそっ、世界選手権に出られてええな」と悔しさが沸いてきたという。「西日本出身だから関東の選手に負けたくないという意識は、大学まではあったのですが、今は特にありません。それより、後輩に負けたくないのです」と、火花を散らしているのは、あくまで八幡浜工高一門の後輩たちに対してだ。

 後輩一門としのぎを削るにはもう一つ理由がある。来年は地元で愛媛国体が行われる。「このままの勢いで来年の国体で優勝して、いい形で愛媛国体を終えたい」と梅野。現役については「指導面も頑張っていきますが、できる限り選手という形でやっていきたいんです」と強いこだわりをみせた。

 梅野をその気にさせるのは、71kg級で長年の壁だった井上智裕(三恵海運)が紆余曲折を経てオリンピック出場を決めた部分も大きい。「井上さんはずっと闘ってきた相手。社会人選手権で優勝がないのは、ほとんど井上さんに負けたからです。接戦の時もあったんですけれどね(笑)」。そんな相手がオリンピックに出場したのだから、「大げさな話、自分にもチャンスがあったってことですよね」と苦笑した。

 現在27歳。東京オリンピックは31歳になる。「続けていてチャンスがあったら」と、今後は世界で闘うことも視野に入れている。「年末に非オリンピック階級の世界選手権があると聞いています。もし開催するのであれば、71kg級に出場してメダルを獲りたいです」。

 西日本出身、教師と二足のわらじで現役を続ける梅野先生のチャンピオンストーリーは、始まったばかりだ。

全日本選抜選手権優勝で佐川哲治校長直筆の横断幕が贈られた。左が恩師の栗本秀樹監督

2009年の西日本学生選手権で優勝した時の梅野(左から2人目)