2016.06.29

男子グレコローマンのオリンピック・チームが日体大で合宿

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文・撮影=保高幸子)

 リオデジャネイロ・オリンピック代表のポーランド遠征の後、初めてとなる男子グレコローマン・チームの全日本合宿が6月27日から日体大でスタートした。

 オリンピック59kg級代表の太田忍(ALSOK)、66kg級代表の井上智裕(三恵海運)は、ともに出場したピトラシンスキ国際大会で上位入賞ならなかったが、遠征の目的は表彰台ではなく、リオデジャネイロ・オリンピックに向けての確認がメーン。両選手とも結果は悔しさで受け止めているが、結果以外のところで収穫を多く得てプラスになったという。持ち帰ってきた課題を今回の合宿で修正する腹積もりだ。

■ポーランドでは手の内を隠した太田忍(ALSOK)

 今回の合宿は1日3回練習が基本で、28日は朝練習(ウエートトレーニング)、午前練習(マットでレスリングの動きを取り入れたサーキット)、そして午後練習(スパーリングなど)。スパーリングは、1分ごとに相手が変わる闘い9ピリオドを2セット行った後、同じく1分×12ピリオドを行うという過酷なもの。

 ともに、ふらふらになって相手の技に掛かってしまうことも多かった。アジア予選で堅い守りとスタミナが効いてオリンピック出場枠を獲得した井上は「こういう練習はアジア予選の前にもやっていた。アジア予選で勝てたのはこの練習があったから。今は、苦しんで追い込みながら、ポーランドで得た課題を克服することも同時にやっています。7月中は追い込む時期だと思う」と、アジア予選での成功体験を本番に活かす。

 豊田雅俊コーチ(警視庁)は「ここでやっているのは、極限状態での強さを生み出す練習。国内で自分より強い相手がいるわけではないから、相手と競っている状況を作るには追い込む必要がある」と話す。井上のレスリングについて、「アジア予選でロンドン金メダリストのノルージ(イラン)に勝った試合は、差し押しで王者に負けていない。足が動いていれば大丈夫だが、疲れて止まってしまうと相手に取られてしまっている。動き続ける限り、井上自身のレスリングができるだろうし、この練習でそれをできる体力と集中力をつけてほしい」と話した。

 太田は壮行会などのため、5日ぶりのマット練習。その影響か、最後はももがつってしまった。それでも「試合でポイントをとられることが多い。その克服がぼくの課題です。こういうきつい練習で取られないようにしていくことで、試合にいきると思う」と話した。

 「オリンピックでベストコンディションでもっていくための練習です。しっかり仕上げていきます!」と頼もしい言葉。リオデジャネイロで勝つため、ポーランドでの合宿から封印した技もある。「外国人選手には“がぶりの太田”とだけ印象づけられている」と言い、金メダルへの準備は着実に進んでいる。

■出場が目標だった井上智裕(三恵海運)、今は金メダルが目標

 合宿場所となった日体大の松本慎吾監督は「けがが怖くて抑え気味にしているようでは、メダルは見えてこない。本物の練習をしなければならない。あと50日弱。これだけやったと自分が思え、だれが見ても絶対と思われる練習、自信となる練習をしてほしい」と激励した。

 2人の力となったのが地元や所属先の壮行会だ。太田は「この合宿にも(地元青森県の)三戸郡五戸町から肉やリンゴジュースなど食材を提供していただいた。町をあげて応援してもらっていてありがたいです。青森や、高校時代を過ごした山口県でも大規模な壮行会があり、さらに力がみなぎります」と話し、応援されればされるほど力になるという。

 井上もこの週末、所属の三恵海運が開いた壮行会に出席したばかり。「周りからの『出場するからには金メダルを』という期待をひしひしと感じました。出ることが夢だったオリンピックでしたが、今は応援してくれる人のためにも金メダルを、という思いです」と厳しい練習を乗り越えた先に金色のメダルを見据えている。

 西口茂樹・男子グレコローマン強化委員長(拓大教)は「2人ともポーランドの結果で落ち込んでいる雰囲気はない。大きく修正するところもない。これまでやってきたことは間違いではなかったと思えるよう、微調整していくだけです」と話した。

 「オリンピックは魔物が棲む。オリンピックで勝つ選手というのは、普段通りの自分で迎えられた選手。普段の力で勝てる実力をつけなければ。火事場の馬鹿力では勝てない。合宿でその力をつけてほしい」と続け、"普段通り"のレベルアップを求めた。

 2人は自宅を離れて日体大合宿所に宿泊し、ハイパフォーマンスサポートの栄養士による食事を受けているが、それ以外は “普段通り”の日体大での練習で1週間を過ごす。