※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=渋谷淳、撮影=矢吹建夫) 決勝で闘う奈良勇太(日体大)
決勝の山本戦は豪快な首投げを見せながらも直後に失点するなど、すきも見せた。最終的には、相手の脚をかけて倒した反則によって逆転勝ち。「優勝はできたけど内容はよくなかった。たまたま相手の足がかかったラッキーな勝利だった」と頭をかいた。
父・英則さんは日大~警視庁の男子グレコローマン最重量級で活躍した強豪で、全日本王者にも輝いている。しかし、奈良は小中学校時代は野球に熱中した。恵まれた体格を生かし、捕手で4番打者と活躍したが、ひじを壊して「硬式は無理だと言われた」ため、野球を断念。父に背中を押され、埼玉・花咲徳栄高に進学してからレスリングを始めた。
周りには幼少の頃からレスリングに親しんでいる選手が多く、フリースタイルでは苦労したようだが、高校2年生のとき「投げが得意だったのでグレコローマンの試合に出たいと」と考えてコーチに直訴。JOC杯ジュニアオリンピックのカデット85kg級に出場して優勝。頭角を現した。 文田健一郎(中)の優勝を祝福する樋口黎に、「日体大は軽量級だけじゃない!」とばかりに乱入した奈良(左)
英則さんはオリンピックで3度の金メダルを獲得した“レジェンド”アレクサンダー・カレリンと世界選手権で2度対戦した経験を持ち、カレリンズ・リフト(俵返し)の洗礼も受けた選手。父から何度かカレリンの話を聞かされたという奈良は、「俵返しがすごかった、と。一方、両手で握手をしてくる紳士だったとも聞いています」と言う。
カレリンのスタイルへのあこがれを問われると、「もちろん、あります。でも、まだまだ課題があるので、俵返しは社会人に入ってから勉強したい」と、目を輝かせた。
体格とパワーに恵まれた逸材とはいえ、全日本レベルで才能が開花するのはこれからだ。奈良は「今は差し、ローリングを磨いている。筋力も技術力もまだまだアップしないといけない」と課題をしっかり自覚。目標とする父、そしてカレリンに一歩でも近づくためには練習あるのみで、このあとは、8月30日にフランスで開幕する世界ジュニア選手権が最初の目標だ。