※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫) ラスト4秒、死力の場外ポイントを取った奥井眞生(国士舘大)
奥井は昨年のJOC杯で、インカレ王者でありながら当時高校生だった山崎に決勝で敗れて2位という苦い思い出がある。奥井は「あの時悔しい思いをしたので、絶対に負けたくなかった。今回はチャレンジャーという気持ちで試合に臨んだ」と言う。しかし、試合は1-1の同点から山崎に片足タックルで場外に出されて1-2と追いかける展開に。
JOC杯も後半に逆転されたことから、「あの時の負けが頭をよぎった」そうだ。けれども、このフラッシュバックが奥井を発奮させた。「リードされていたが、最後まで何かできないかなとチャンスを探しました。そしたら、最後、タックルに入れるすきがあったんです」と、山崎の片足をつかむとそのまま場外へ。2-2のラストポイント差で逆転し、今回は上級生の意地で勝利を引き寄せた。 2015年JOC杯で高校生の山崎に苦杯を喫した奥井(青)
この階級はリオデジャネイロ・オリンピックに出場する高谷惣亮(ALSOK)が群を抜いている階級だが、東京オリンピックを目指す有望な若手も目白押し。有望な学生中心の顔ぶれに、70kg級世界選手権選代表の小島豪臣(神奈川・中原養護学校教)元学生王者の北村公平(阪神酒販)らの実績のある選手がエントリーし、好カードが数多く行われた。
奥井は「高谷さんも嶋田さん(大育=全日本2位)もいないし、今回は自分が優勝したいと思いました」と、優勝をはっきりと意識して闘ったという。
実は、奥井が恐れていたのは、山崎よりも準決勝の小島だった。「練習でも全然歯が立たない。これまでの練習で、合計で4点くらいしか取ったことがない」と、奥井にとっては憧れであり、格上の選手だった。けれども「今回はそんなこと関係ない。絶対に自分のレスリングをする。バック取ったら絶対返しに行く」と呪文のように唱え続けたところ、見事に有言実行。タックルからバックと奪うと連続ローリングで仕留めて見せた。
「小島からタックルを奪って勝てたことが一番の収穫か?」との問いに、顔をほころばせて「そうですね」と答えた奥井だが、「今回の優勝で自分が(完全に)全日本レベルになったとは思っていない」ときっぱり。今年の夏には3年生にしてインカレ3連覇もかかっている。浮かれずに今シーズンを走り抜く決意を見せた奥井だった。