※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子) モンゴルでのオリンピック予選を成功させた朝青龍会長(右)とUWWネナド・ラロビッチ会長
モンゴルで行われた初めての世界予選で、ひときわ目を引いたのは、大相撲で第68代横綱に君臨した朝青龍ことドルゴルスレン・スミヤバザル・モンゴル協会会長(以下、朝青龍会長)の姿だ。2013年にモンゴル協会の会長に就任し、協会の活動に貢献。様々な国際大会を開催し、今回、ついに世界予選を誘致し、大会を大成功に収めた。
■「地元の子供たちに夢を与えられた」…朝青龍会長
日本での朝青龍会長の知名度は抜群だが、モンゴルでの人気もすごい。角界を引退してもモンゴル国民から愛されており、会場を歩くだけで観客が大騒ぎするほどだ。
モンゴルにはモンゴル相撲という伝統競技があり、国内でも格闘技は認知度が高い。国内アマチュアスポーツは、柔道、ボクシング、レスリングの順に人気があるそうで、国民も好んで格闘技を見る風習がある。
世界レスリング連盟(UWW)のネナド・ラロビッチ会長と朝青龍会長がセレモニーを行った時や、北京(金)、ロンドン(銀)とオリンピック2大会連続メダリストの柔道選手、ナイダン・ツブシンバヤルがゲストで登場した時は、会場が大歓声に包まれた。
会場にかけつけた一般客は目の肥えたお客ばかり。モンゴル選手が出てくると大きな歓声があがるのは当然のことで、外国選手の技が展開されても大きなリアクションを行うなど、レスリング競技の関心度の高さをうかがわせた。 世界予選が行われたアリーナ
■リオデジャネイロでの目標は「金2個」!
モンゴルのレスリング勢力図は右肩上がりに更新中だ。ロンドン・オリンピックでは女子63kg級のバトチェチェグ・ソロンゾンボルドがモンゴル女子史上初のメダリストとなり、昨年の世界選手権(米国)では決勝で川井梨紗子(至学館大)を破って優勝。リオデジャネイロ・オリンピックの金メダルの本命選手として注目されている。
さらに、世界中を驚かせたニューフェースがいる。今年1月のヤリギン国際大会(ロシア)で、オリンピック3連覇の伊調馨(ALSOK)をテクニカルフォールで下した女子58kg級のオーコン・プレブドルジだ。今後、どんな強豪選手が出てくるか分からない。
モンゴルの女子チームは、48kg級と75kg級の出場枠がまだ獲得できていないが、今大会では両階級ともに準決勝で大接戦を演じた。強豪選手が抜けたトルコの最終予選に向けて、朝青龍会長は「ラストチャンスをぜひともつかんでほしい」と期待を寄せた。
朝青龍会長はウランバートル自体が強化につながる要素を満たしていると自負する。山に囲まれて自然のトレーニングコースは多数ある。市街地自体が1300メートルの高地に位置して、体力をつけるには最高の環境だ。 リオデジャネイロでの金メダルが期待されている女子63kg級の女子63kg級のバトチェチェグ・ソロンゾンボルド=2015年世界選手権(撮影・矢吹建夫)
その肉を主食として食べる選手たちの強さの源にもなっている。朝青龍会長は「リオでの目標は金メダル2つ!」ときっぱりと宣言した。
■アジアでより多くの国際大会を
朝青龍会長は、アジア連盟の理事にも名を連ねている。「私はアジアで国際試合が少ないと思っています。もう少し国際試合を開催できるよう努めていきたい」。近年では、モンゴルで行われていた大会を「モンゴル・オープン」として国際化。昨年5月末には、「アサショウリュウ・カップ」というカデットの大会を初開催し、カザフスタン、韓国などの近隣6ヶ国が参加した。今年は5月初めに第2回大会が行われる予定で、今後も活性化をはかる。
2014年のUWWの理事選挙で落選し、今年夏に再度出馬するかが注目されているが、今のところ「出馬しない」と見送ることが濃厚。だが、オリンピック予選を開催したたからには、モンゴル協会会長として次のステップを見据えている。「世界選手権をモンゴルでやりたい。世界の舞台を子供たちが見られるチャンスになります。できる限り実現させたいです」と、モンゴルを世界にアピールしていく青写真を描いていた。
(取材協力=河内健太郎氏)