2016.03.30

【全国高校選抜大会・特集】残り7秒からの逆転劇! 阿部敏弥(東京・帝京)が連覇達成!

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=増渕由気子)

 最後まであきらめずに攻めて大逆転! 全国高校選抜大会・個人戦の50kg級決勝は昨年と同カードになり、昨年優勝の阿部敏弥(東京・帝京)が同2位の松井稜(岐阜・中京)を6-3で破って大会を2連覇した。

 昨年の対戦はお互いに見合いすぎ、松井の最後の強引な攻めを阿部が抑え込んでフォールしたものの、試合内容は互いにアクションがほとんどない展開だった。両者は8月の京都インターハイで再戦し、その時は松井が阿部にリベンジを達成。1勝1敗の五分でシーズンを終えた。

 高校最後のシーズンの幕開けとなるこの大会の決勝で、2人は再び対峙(たいじ)した。試合内容は阿部が松井の腕を取って攻めたてるなど、試合の主導権を握っているように見えたが、第2ピリオドの中盤、一瞬のすきをついて松井が持ち上げタックルで2点。残り1分で3-1とし、阿部は2点差で負けていた。

 過去の対戦は、すべて紙一重の闘い。松井はこの2点が決勝点だと思い込んだのだろう。残り時間、明らかに守りの体勢に入った。

 この流れが阿部にとって想定外だったようだ。「自分はリードして終盤に守り切れず、逆転負けすることが多い。リードした状況で最後を守り切る練習をしてきました」。そのため、松井の堅い守りをなかなか打破できずに時間だけが過ぎていった。

 審判は松井の守りが顕著になった残り7秒でコーションを与え、松井は1失点。スコアは1点差となったが、阿部は「残り7秒、押し出しの1点では勝てない(注=3-3となってもビッグポイント差で負け)。やばいかな」と焦りを感じていた。

 思い出したのが前日の学校対抗戦の準決勝、韮崎工(山梨)-いなべ総合学園(三重)の84kg級、下山田周(韮崎工)と藤田大貴の一戦だった。試合は藤田が7-3とリードを奪って終盤に。勝負はついたかと思われた瞬間、下山田が足技で4点。7-7と追いついて勝利した。

 下山田とは同じ関東ブロック。学校は違うが、試合や練習でよく顔を合わせる仲だ。阿部は「(下山田の試合に)ものすごく勇気をもらった。僕もあきらめずに最後まで闘おうと思った。残り7秒しかないけど、力には自信があったし、強引に行けば取れると思った」そうで、すぐさま得意の差しで松井を捕まえると、場外際にラッシュして強引に投げて4点。残り時間はわすか1秒だった――。

 「今までにない勝ち方。とても気持ちがよかったです」と、あきらめずに得た栄冠に満足そうな表情を浮かべた阿部。「昨シーズンのように勝ったり負けたりはもうしたくない。大学に入るまで、試合は全部勝ちたいです」と、白星街道で高校ラストシーズンを走りきる意気込みを見せた。

ラスト7秒、コーションで1点差と迫った阿部だが、このままでは勝てない!

終了間際、場外際でイチかバチかの投げ技で勝負をかけた阿部