※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫) 決勝で惜敗、直後は茫然自失だった文田敏郎監督
準決勝のいなべ総合学園(三重)戦では、74kg級の下山田周がラスト20秒まで4点をリードされている劣勢。ここで負ければ韮崎工の決勝進出はなかったが、脚をかけての投げで4点を奪取。7-7の同点ながら内容差で勝つなど、粘りを発揮しての決勝進出だった。
文田敏郎監督は「100パーセント満足ではないが、選手はよくやってくれた。正直、この戦力で決勝まで進めるとは思っていなかった。よく闘ってくれた選手に『ありがとう』と言いたい」と、まず選手の健闘をたたえた。
決勝では、その下山田が2-2のスコアながらビッグポイントの差で惜敗。120kg級は不戦敗のため、この時点で優勝がなくなった。最後は攻めに攻め、相手に3度目のコーションがついてもおかしくない状況だったが攻め切れずに無念の涙。がぶったあとの攻撃に今ひとつの工夫があれば勝てたと思える内容だっただけに、悔やまれる黒星となった。
それでも文田監督は「次につながる内容だったし、会場が盛り上がった中で試合ができてよかった。84kg級までもつれれば、さらに盛り上がったでしょうね」と話し、初めて経験する会場の注目を一身に受けての闘いが心地よさそう。「もっと楽しめるよう、もっと練習したいです」と、初の決勝進出が新たなモチベーションになったようだ。 準決勝で驚異の逆転勝ち、涙ぐむ韮崎工74kg級の下山田周
さらに、グレコローマンを中心に練習していることが知れ渡ってか、「グレコローマンをやりたい」と入学してくる選手も出てきたという。この全国準優勝によって、いっそう中学選手の憧れの存在になりそう。同監督は「来てくれればうれしいですね。田舎ですけど…」と笑う。
長男・健一郎を育てて送り出し(現日体大)、情熱が下がるかな、とも思われたが、「子供たちと一緒に闘えるのは楽しいです」と話し、当分、指導のモチベーションが下がることはなさそうだ。
全国大会優勝のため、関東大会では控えた胴上げ。今回、それを実現することはできなかったが、文田監督の体が宙を舞う日は、そう遠い日のことではあるまい。