※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
初の国際大会金メダルを手にする井上智裕(三恵海運)
準決勝のあと、「オリンピックに出ることがずっと夢でした。本当はロンドン・オリンピックの挑戦を最後に競技の一線を引こうと思っていたのですが、その後、全日本選手権で優勝できたので、まだ自分はできるんだと、4年間頑張ってきました。まだ決勝が残っているのですが、オリンピックの枠が取れて、うれしくて、安心しています」と声を震わせながら喜びに浸った。
3月に入ってから、長年課題だったグラウンドのディフェンスのこつを習得。初戦と準決勝は、グラウンドのディフェンスは無失点。さらにグラウンドの攻撃ではローリングをしっかり決めて、「1度守って1度返す」というスタイルを徹底し、勝ち抜いた。
■固い守りでオリンピック王者を破る
決勝では、ロンドン・オリンピック60kg級王者のオミド・ノルージ(イラン)と対戦することに。「高校1年の時のアジア・カデット選手権の決勝がイラン選手相手で、バラバラにされた。イランには一生勝てないんじゃないかなと思い知らされた」と、イランのバイアスがかかっていた井上だったが、第1ピリオドのグラウンドのディフェンスを守れたことで、準決勝までのリズムを取り戻した。スタンドで押し負けず、第1ピリオドの終盤には井上にグラウンドの攻撃権が与えられた。 準決勝で勝ってガッツポーズ
井上は「国際大会で初の金メダルで、一生勝てないと思っていたイランに勝てた。初日に太田忍がイラン選手(ハミド・スーリヤン)に勝って、諦めずにやれば日本人でも勝てるんだなと分かった」と、後輩の活躍が刺激になったようだ。
井上は典型的なレスリング一家に育った。父親は日体大OBで高校の指導者。姉、兄、弟(男子フリースタイル65kg級の貴尋)。「弟の貴尋は小さい頃から成績がよかった。家族としてはうれしいが、少し時間が立つと悔しくなってくる。現役を続けてこられたのも、弟が先に世界選手権代表になって(2013年)世界の舞台で活躍し、負けたくない一心で現役を続けてしまったことも大きい」。