2016.03.19

【アジア予選/第1日・特集】世界Ⅴ7の強豪を破ってオリンピック初出場!…太田忍(日体大)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

 【カザフスタン・アスタナ、池田安佑美】日本のエースとして名乗りを上げる! 男子グレコローマン59kg級の太田忍(日体大)は、初戦でロンドン・オリンピック金メダリストのハミド・スーリヤン(イラン)を撃破。準決勝までの3試合を勝ち抜いてオリンピック出場権を獲得し、代表に内定した。

 アジア予選の初日に注目選手が集まった。2014年世界2位の高谷惣亮(ALSOK)と、両スタイルの最軽量級であるフリースタイル57kg級の樋口黎とグレコローマン最軽量の太田忍(日体大)。その中で、最も手ごわい組み合わせを引いたのが太田だった。

 スーリヤンは、オリンピック金メダリストのみならず、世界選手権も6度優勝の実績を持つ選手。太田自身も「正直厳しいかな」と感じてしまったそうだ。

 だが、ここカザフスタンは太田が2年前、初めてアジア選手権に出場して、前年の世界王者を破って決勝に進出したという縁起のいい場所。アジア選手権2位と衝撃のデビューから2年、すっかり日本のトップ選手の一角をになう選手に成長した太田は、元世界王者を相手に物おじせずに対峙(たいじ)した。

 立ち上がりに失点したが、慌てずに自分の形である胴タックルで反撃。相手の場外逃避もあって5-4と逆転。終盤にも一本背負いから崩して、バックを奪ってとどめの2点を追加した。試合直後は、太田も日本陣営も優勝したかのような喜びようだったが、あくまでも初戦。すぐに気持ちを引き締めなければならなかった。アジアの59kg級は世界のトップが集まる地域。スーリヤン以外にも警戒するライバルはたくさんいる。

■世界レベルの胴タックルが自信につながる

 太田は「今大会は全体的に第1ピリオドに大量失点してしまった」と反省するように、2回戦のウズベキスタン戦、準決勝の韓国戦との対戦では常に追いかける苦しい展開だった。だが、突破口となったのが、「世界で通用するレベル」にまで磨いてきた胴タックルや、スタンドからの投げ技だった。「大量失点しても30秒あれば、取り返せます」と言い切るほどに持ち技が増えたことが自信につながっているようだ。

 2年前に同地で世界王者に勝つなど、どんな相手でも物おじしない性格が今回のスーリヤン戦でも生きた格好だったが、それをアシストしてくれたのは、同じ59kg級の日本のライバルたちだ。スーリヤンの最大の好敵手と呼ばれたロンドン・オリンピック代表の長谷川恒平(青山学院大職員)や日体大の先輩である昨年の世界選手権代表の田野倉翔太(クリナップ)らだ。

 太田は「全日本選手権では長谷川先輩に勝てましたけど、(2月の)ハンガリー・グランプリでは負けました。田野倉先輩には結局、1度も勝てずじまいでした。日本の59kg級はレベルが本当に高くて、長谷川先輩らと競り合ってきたことで成長できた部分はあると思う。先輩たちからも『お前の形をやれば、勝てるよ』と言ってもらって、自信を持って試合に臨むことができました」。

 この勢いで優勝したいところだったが、「僕がプライドをかけて闘った」中国との決勝は、7-9のきん差で敗退。アジア予選は2位通過の銀メダルだった。決勝後には「もっとちゃんとできたと、反省の気持ちしかない」と笑顔が消えていたが、負けた悔しさを強力なモチベーションに変えてきた太田だ。この予選の悔しさをバネに、ブラジルの地でさらに成長した姿を見せてくれるはずだ。