2016.03.09

【全自衛隊大会・特集】一度はマットを去ったが、情熱は消えなかった! 兄を超えられるか?…保坂俊(フリースタイル70kg級)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文・撮影=樋口郁夫)

 第22回全自衛隊大会の個人の一般フリースタイル70kg級に、2014年世界選手権70kg級代表の保坂健選手(自衛隊)の弟、保坂俊(第21普通科連隊)が出場。決勝で昨年の65kg級王者の三谷裕之(第3術科学校)に敗れ、「ふがいなさを感じ、何とも言えない気持ちです」と悔しさを表しながらも、4月からの体育学校入隊に向け、まずまずの結果を残した。

 「4月末にJOC杯があるので、今回の悪かった点を直して、今度は優勝したい」と気持ちを奮い立たせ、体育学校選手としてのデビュー戦へ臨む。

■けがで最後のインターハイと国体を断念

 保坂兄弟は秋田県出身。健選手が全国中学生選手権3位などの実績をもとに、埼玉・埼玉栄高にスカウトされてレスリング留学したのに対し、俊は中学時代にレスリングを離れ、地元の秋田商高に進んでからレスリングを再開した。

 3年生の時(2013年)に東北高校総体の66kg級で優勝。現在、大学レスリング界で活躍している米澤圭(早大)や桜庭功大(拓大)とともに全国王者を目指して燃えていたが、直後にひざを負傷して手術することになり、決まっていたインターハイを断念。国体にも間に合わなかった。

 不完全燃焼のまま高校生活を終え、卒業後は一般自衛官へ。本格的なレスリング活動を離れることになった。しかし、マットから離れてみると、「もう一度やってみたい」という気持ちが徐々に出てきた。全自衛隊の大会があることを知り、昨年のこの大会の70kg級に出場。結果は優勝。「もう一度、レスリングを続けたい」という気持ちが固まり、体育学校への入校を希望した。

 昨年10月から集合教育(経験&試験の入隊)で体育学校の練習に加わり、練習を積んできた。それだけに、優勝を逃したことに悔しさもひとしお。決勝の相手の三谷は、福岡大時代に両スタイルの西日本学生新人戦を制するなどの実績の持ち主。自衛隊の選手として2007年に全日本選手権に出場している。

 第一線を退いてからかなりの時間がたっているが、「組み手、プレッシャー、すべてに負けていました」と、上を目指すためにはさらなる努力が必要なことを痛感した結果となった。

 勝負はこれからであることは、言うまでもない。

■東京オリンピックへ向け、兄弟対決もありうる? 

 兄はインターハイ王者、学生王者、世界ジュニア選手権出場、アジア選手権銅メダルなどを経て世界選手権のマットに立ち、2020年東京オリンピックへ向けての期待の選手。そんな兄を目標に体育学校へ進んだことが予想されるが、「全然関係ないです」-。また、兄の成績と比較されてしまうことになるが、「気にしていないし、気にするつもりもないです」-。自分は自分、という姿勢を貫く腹積もりだ。

 兄と同じく、体重的には70kg級がベスト。だが、オリンピックを目指す集団に入る以上、いずれ65kg級か74kg級に決めなければならない。「今の段階では65kg級で挑戦するつもりです。今後の体づくりの結果、体が大きくなったら74kg級になるでしょうが…」とのこと。

 もし74kg級に決めたら、兄と日本代表を争うことになるが、「そうなったら、仕方ないですね」とサラリ。兄は「目標になるでしょうし、追いつきたいです」とは口にしたが、果たして本心なのか? むしろ、「兄の影響で注目されるのは嫌」という雰囲気すら感じられた。

 けがで一度はマットを去った選手が、エリートの兄を超えることができるか。“雑草選手”を何人も世界に送り出している自衛隊の指導力が期待される。