※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
準決勝の敗戦を引きずることなく、3位決定戦を快勝した登坂絵莉(至学館大)
しかし、3位決定戦で快勝し、実力の違いを見せた登坂の表情には、さほどの暗さはなかった。負けたことで、「ある部分ではホッとしている。これまで、何となく試合で勝ってきた部分があった。勝てるだろう、とばく然と考えている自分がいた。負けたくはなかったけど、オリンピックで金メダルを取るためには、一度負けた方がいいんじゃないかな、と思っている自分もいた」と言う。
「結果、オーライ」と言う言葉があるように、試合で反省点が見つかっても、勝ってしまうと本気になって反省できない、と言われる。負けてこそ真剣に反省できる。登坂が言いたかったことは、そのことなのだろう。「2012年の世界選手権のあと負けてないので、『なんだかんだがあっても勝てる』と思っている自分がいました」と、課題に取り組む気持ちにすきがあったことを認めた。
「プレッシャーから逃げたい、という気持ちも、少しはあったかもしれません」。負けないことによって高まる期待。それが力強いエネルギーになればいいが、期待は、時として選手をがんじがらめにしてしまう。「これで迷いなく行ける、というすっきりした気持ちになっています」と口にし、“無敗女王”という呪縛から解き放された気持ちを表現した。
「負ければ悔しいし、悔し涙も出ました。久しぶりに心の底から悔しいという気持ちになりました。勝っていたら、このままの練習で金メダル取れるのか、という気持ちになっていたと思います。このあとの半年間、オリンピックに向けての一番いい気持ちになるかな、と思います」。気持ちは、あくまでも前向きだ。
■「審判の判定で負けたとは思っていない」…黒星の微妙な判定
従来とは違うやり方の減量方法が、試合にどう影響するかを試す大会でもあった。長期間をかけての減量は予想以上に体が楽で、試合前の感覚では「このやり方の方がいい」だった。問題は、試合で動けるかどうかだった。 敗戦直後は再度のビデオチェックを要求した登坂だが…
なかなかポイントを取れず、追いかける展開なってしまったのは、「世界選手権や全日本選手権みたいに『何が何でも勝ちたい』という気持ちになり切れなかったことが原因だと思います」と分析する。「純粋に実力不足という面が大きいと思いますが、一度負けた方がいいんじゃないかな、という中途半端な気持ちが出てしまったからかもしれません」と振り返り、減量方法の影響を否定した。
また、微妙な判定だった準決勝の黒星の問題のシーンは、「審判の判定で負けたとは思っていない。自分の実力不足です」ときっぱり。
約3年5ヶ月ぶりの黒星を、減量のせいにも、判定のせいにもせず、前進のためのエネルギーと受け止めた登坂。「この悔しさを力に変えて、オリンピックまで突っ走りたい。(吉田)沙保里さんもオリンピック前に負けている。この負けで、自分がどう変われるかですね。この負けが、これからの半年間の練習を支える力になることは間違いありません」ときっぱり。
つまずきをエネルギーに変え、登坂がリオデジャネイロ・オリンピックの金メダル・ロードを再スタートする。