※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 66kg級の安楽龍馬が勝ち、この時点で韮崎工の優勝が決まった
昨年のこの大会は霞ヶ浦(茨城)が初戦で敗れる波乱があった。今年も、昨年の王者で全国選抜大会ベスト8、インターハイを制覇した埼玉栄(埼玉)が初戦で敗れるなど番狂わせの幕開け。そんなトーナメントを制したのは、これまで3位が最高成績だった韮崎工だった。
文田敏郎監督は「本当にびっくり! 出場する選手の過去の戦績からすると、勝つことが難しい相手だったのに…。よく頑張った」と選手たちをたたえた。
■「勝ちに行くより、目立ってこい!」…文田敏郎監督
決勝の相手の柏日体は、創部2年目ながら全国中学生(全中)王者やモンゴルからの留学生などを多数擁した“エリートチーム”。昨年は55kg級の山口海輝が国体王者になるなど結果を出している。チャンピオン不在の韮崎工にとって厳しい闘いになることは目に見えていた。 貴重な逆転勝利をおさめた50kg級の稲葉海人
韮崎工は「不戦勝2勝、不戦敗1敗」で、柏日体から2勝をもぎ取れば優勝が決まる。50kg級は稲葉海人が出陣。稲葉は有名キッズクラブのAACC出身で、実力がある選手だが、柏日体は全中MVPの服部大虎が登場。稲葉は「過去10回以上やっていて、全部負けていた」と分が悪いのは分かっていた。
高校では珍しくグレコローマンに力を入れて練習することで有名な韮崎工は、組むスタイルを得意とする選手が多数いる。文田監督は「韮崎の子供たちは、グレコローマンの要素があるレスリングをフリースタイルでも展開できる。飛び込むより組んで、それから自分の形でいけ」とアドバイス。そして、「勝ちに行くより、目立ってこい!」と伝えた。
稲葉は服部のタックルを切れずに、あっという間に0-8とリードを広げられたが、残り時間も1分を切ったところでスタイルチェンジ。文田監督の指示通りに、組みついてからかわず掛けで、服部をマットにたたきつけて4点。そのまま残り11秒で逆転のフォール勝ち。これまで勝てなかった相手に、やっと一矢報いることができた。
■50kg級・稲葉海人の殊勲で66kg級の安楽龍馬が発奮 過去3戦3敗の相手に果敢に闘った66kg級の安楽龍馬
勝負の後半、得意の片足タックルから2点を奪うと、スタンドの状態から返して4点を加えて6点をゲット。これが決勝点となり、7-1で終了のブザー。稲葉と安楽の2勝に、不戦勝の2勝を合わせて4勝となり、韮崎工の優勝が決まった。
文田監督は「準々決勝で強豪の花咲徳栄に勝ち、準決勝も館林に勝って初の決勝に出たことはうれしかった。けれども、『ここで満足するな』と自分と生徒たちに言い聞かせました」と振り返る。同監督は金メダリストになった米満に基礎を教え、息子(健一郎=現日体大)を山梨県初の高校チャンピオンに育てるなど、これまでも指導の実績はあったが、「学校対抗戦を制したというのは、また別のうれしさがあります」と顔をほころばせた。
優勝チーム恒例の胴上げは、今回行われなかった。矢部和希主将は「関東大会でしたので遠慮した。3月の全国大会で優勝して、今度こそ文田先生を胴上げしたいです」と、全国の頂点に立つ目標を掲げた。
3月、新潟の地で、韮崎工の悲願の胴上げは実現するか―。