※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=樋口郁夫) 左から河野隆太(優勝)、松田健吾(3位)、香西順平(優勝)の青学大OB(他に、大関亮太が3位)
男子グレコローマン75kg級で優勝したのは、学生時代に新人選手権優勝やアジア・ジュニア選手権出場の成績を持つ香西順平(香川県協会)。昨年9月に地元・香川に帰って養護学校へ勤務。仕事の合間に母校・高松北高校の練習に加わって指導のかたわら汗を流している。しかし「月4回行けることはないです」という状況だ。
それだけに、「優勝できるとは思っていなかったです。でも、メンバーを見たら、できるかな、と。心臓が破裂してもいいから頑張ろうかな、という気持ちになりました」と言う。決勝は先制されてしまったものの、冷静に試合を進めてテークダウンとグラウンド技で逆転しての勝利だった。
仕事に追われる中でも練習を続けるのは、いずれ高校の教員となり、選手を育てて母校に送りたいという気持ちがあるからだ。高校生選手への指導で気をつけているのは、選手の目線に立つこと。「大学ではこうだ、と言っても響かないです」と話し、上から押しつけることのないようにしているという。
もう一人は全日本学生選手権2位などの成績を持ち、現在は鈴鹿国際大の監督を務める河野隆太(同大学職)。卒業後は年間の社会人2大会の常連で、この大会は3年連続5度目の優勝。来月の全日本選手権にもエントリーしているバリバリの“現役選手”だ。
最後は日体大卒業選手にフォール勝ちしての優勝に、「出てきてよかったです」と第一声。香西と違って学生選手と毎日練習しているだけに体力は十分。勝因を「学生と同じように練習しているからだと思います」と振り返った。
西日本学生リーグ戦の中では新興大学。二部リーグで最下位争いをしているのが現状だが、上を目指す気持ちは十分。全日本選手権や全日本選抜選手権に出場し続けるのも、頑張る姿を学生に示すためだ。「このあとは(2週間後の)秋季リーグ戦に向けて指導を頑張ります。そのあとは全日本選手権」と、指導と現役とをまたにかけての奮戦を目指している。
■OBの奮戦に、現役チームが呼応できるか
男子フリースタイル65kg級で銅メダルを取った松田健吾(青山学院中等部職)は、今春大学を卒業し、現在は同大学のコーチ。中学職員で練習に専念できるわけではない環境だが、上位進出を果たした。「コーチがこれではふがいないですね」と悔やみながらも、「体が続く限り試合に出て、指導も一生懸命にやりたい」と話した。
他に、一般警察官としての仕事をしながら汗を流している大関亮太(警視庁)が男子フリースタイル57kg級で3位に入賞。オリンピック選手輩出大学の意地を見せた。
来年、創部50周年を迎える同大学は、2000年代に入ってからは毎年のように学生王者または大学王者を輩出し、2002年と2006年の全日本大学グレコローマン選手権では団体3位に入賞。その後、オリンピック選手を生んだ。しかし2009年以降では、2013年に菊池崚が全日本学生選手権の男子グレコローマン84kg級で優勝したのみ(女子は除く)。学生の王者が遠くなっている。
リーグ戦も2けたの順位が続き、今年の全日本大学選手権とグレコローマン選手権の大学対抗得点では、ともに8位にも入っていない。“第2の長谷川恒平”が生まれる雰囲気はまったく感じられない。
OBが“老体”にムチ打って踏ん張るのは、現役チームに対する「このままでは終わるなよ! もう一度、オリンピックに選手を送ろうよ!」という熱きメッセージに他なるまい。